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監督インタビュー vol.02

デジタルで撮影・制作された映像作品にいち早く焦点を当て、2004年にスタートして今年で9回目を迎えた「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」。新たな映像作家を見い出すメイン・プログラムの長編コンペティション部門で、将来が嘱望される世界各国の新進監督とともにノミネートされた国内3作品の監督に、それぞれ一問一答。

 

奥村盛人監督『月の下まで』

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」
長編部門(国際コンペティション)ノミネート作品

   

監督プロフィール 

  

奥村 盛人

1978年 岡山県生まれ。高知県の地方紙の社会部・地方部記者として8年間勤務し、31歳の春に映画制作を志して上京。2010年、映画美学校フィクションコースを卒業後、同校の仲間たちと本作制作に取り掛かる。在学中、16ミリフィルムの修了作品で助監督を務めたほか、35ミリの成人映画の現場などにも参加。本作が初の長編監督作品となる。

 

 

――もともと高知の地方新聞で社会部記者をされていたとききました。そこから映画監督へ転身した理由について教えてください。

 

昔から映画が好きでよく観ていました。特に高校時代はいろいろあり映画館は僕にとってのスケープゴート。映画には何度も救われました。ですから“いつか映画を作りたい”と思っていたのですが、地方ですし、なかなかそういう環境にもない。そうこうしていたら新聞社に就職が決まって社会部に配属され記者生活がスタートした。これはこれですごく充実していてやりがいもあったんですけど……。でも、30歳を前にしたぐらいからやはり“映画をやりたい”との想いが強くなってきて、何もしないで後悔するより当たって砕けたら納得いくとの思いで、30歳になったとき会社を辞めて映画学校に行く道を選びました。それで1年映画学校に通って現在に至っています。授業の課題で作った短編はあったりするのですが、作品といえるようなものは今回の『月の下まで』が初めて。ですので、今回の映画祭に選ばれたときは、正直びっくりしました。

 

――高知の小さな港町で暮らす漁師の父親と知的障害を持つ息子の再生を描いた親子ドラマですが、この脚本はどういったところから生まれてきたのでしょう?

 

映画学校でプロット書く授業があって、そのとき書いたものが今回の作品のベースとなっています。あと、高知は大学生から新聞記者時代を過ごした、郷里の岡山と同じぐらい愛着のある第2の故郷。映画を作ることを志した時点で高知を舞台にした作品を作りたいという思いはありました。実は今回の舞台となっている黒潮町の漁協の組合長さんとは知り合いで、上京する際に“いつかここで映画を撮るので、そのときは船をかしてください”と実現するかどうかもわからないのに言っていたりもしていて(笑)。そういったいろいろな要素がつながって、このドラマが出来上がりました。

 

――そのドラマなのですが、地方の現状や地方ならではの人間関係への視点が鋭い。そこには東京を基準にしない監督のある意味、地方に根ざした独自の視点があると思いました。

 

自分では、そういう視点があるのかはよくわかりません。ただ、ずっと地方で生きてきましたし、新聞記者としてさまざまな地方の状況の表から裏までをみてきましたから、そういう物事の見方が色濃く作品に反映されていることは確かだと思います。

 

――一方、撮影に関しては大変だったのではないでしょうか? というのも監督にとってはよく知る土地でも、ほかの人にとっては見ず知らずの場所。よく初監督にして、東京からスタッフとキャストを高知まで引き連れて、ロケで撮る英断が下せましたね?

 

あとあと考えると自分でもよくこんな無謀なことができたなと(笑)。でも、ほんとうにありがたいことに地元のみなさんが協力をしてくださいました。スタッフもキャストも宿泊はホテルではなく、地元の一般の方のおうちにお世話になりました。これは僕の意図したことでもあったんですけど、そうすることでこの土地の気風や空気、ここで生きる人々の息吹を肌でみんなに感じてほしかった。それが必ず映画の力になると思ったんです。今回の作品で1番に伝えたかったのは、逆境に負けない人間の強さと逞しさ、そして土佐の風土や伝統、町の人々の気概。そういった人間味や土地のパワーが滲み出る作品を目指しました。世界の作品が揃う中、地方の小さな町を舞台にした自分の作品がどう受けとめられるのか楽しみです。

 

――ご自身が目指す映画つくりを教えてください。

 

芸術肌のタイプではないので、たぶん誰も想像できないような斬新な発想の作品を作ることは無理(笑)。そういうことより自分が実際に見たり聞いたりしたことをしっかりと見つめ、しっかりと描いた作品を作っていきたい。誰もが知っている大事件よりも、“なんでこんなことしちゃったの”という小さな事件に興味がある。実はそういう小さな事件こそよく目を凝らしてみると、その土地の問題や社会状況が凝縮されていたりする。そういうバックグラウンドからその人物の人生までがしっかりと見えるように描ける監督になりたいですね。



(インタビュー・文章: 水上 賢治)

 

『月の下まで』 〔2012年制作/96分〕

高知県黒潮町で漁師をしている明神勝雄は、障害を抱える一人息子の雄介と、年老いた母親セツと3人で生活している。だがある日、セツが死んでしまったことで状況が一変する。買ったばかりの漁船の支払いも残っているのに、雄介の世話に追われ漁に出られなくなってしまう。勝雄の幼なじみ・多恵やその娘・恵理が救いの手を差し伸べてくれるものの、学校からの呼び出しや万引きなど、雄介のトラブルに振り回される中、勝雄は雄介に徐々に殺意を抱いてしまう。追い詰められた勝雄の元に、家族を捨てた元妻・美砂子が現れ、雄介を引き取ると言い出すのだか…。

©Takeo Urakami

 

○出演:那波隆史、松澤匠、富田理生、荻野みどり、高山真樹、真賀田サヤ、竹下かおり、平井千尋、下尾仁、鈴木ただし

映画祭2012ガイドPDFダウンロード

 

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