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【インタビュー】『さざなみに揺れる手』川上栄輝監督

――川上監督については異色の経歴の持ち主ですので、作品の話に入る前に、キャリアの経緯についてから伺わせてください。まず、大学卒業後、障がい者グループホームに3年勤めたとのことですが?

 

「はい。映画は子どものころから大好きで何度も助けられてきました。ただ、自分で映画を作ることは当時はまったく考えていなかったです」

 

――大学も映画学科とはまったく関係なかった?

 

「大学は国際科でした。もともとは海外ボランティア関連に進みたいと思っていたんです。ただ、留学をしたら、海外の水がどうにも合わない。挫折して国内に目を向けて、なにか人や社会に貢献できることを探し始めて、介護福祉の分野に興味を持つようになりました。さいわい大学に福祉科もあったので少し学んで、特に資格を取ったわけではないのですが、障がい者グループホームで働き始めました。当時は、介護に対して自分の情熱を注いでいていろいろと勉強もしましたし、この仕事を一生続けていこうと考えていました」

 

――そこから、どのようにして映画の道に?

 

「それは1日あっても語り尽くせません(笑)。端的に言うと、いろいろな悪い要因が重なってしまって、福祉に対する情熱が消えてしまったといいますか。ある日、突然、気持ちの糸がプツンと切れてしまって働けなくなってしまいました。一旦仕事を辞めて気持ちと体の回復に努めて、しばらくして体調が戻り、別の職種に就職したのですが、以前のように仕事をしていてまったくワクワクしない。それまでは社会人として真っ当に働いて生きるということに固執しているところがあったんですけど、2か月でスパッと辞められたんですね。そこでふっきれて、会社に所属して働くことにこだわらなくてもいいんじゃないかと思いました。そのとき26歳だったので、まだやりたいことやっても許される。じゃあ、ほかに何がしたいか考えたときに、映画を撮ってみたいと思いました」

 

――それで映画館でアルバイトを始めた?

 

「そうです。映画を作りたいと思いましたが、それまで映画制作をしようなんてまったく考えたこともなかったので右も左もわからない。どんな映画学校があるとかもまったく知りませんでした。なので、とりあえず映画館でバイトをしてみることにしました。映画館で働けば、誰かしら映画関連の人に出会えるだろうと思って。そうしたら運がいいこと映画を作っている同僚がいて、雑用ですけど映画の現場を経験することができました。

 

その後にENBUゼミナール2023年度映画監督コースに入学して、『さざなみに揺れる手』はその中で作った作品になります。ちなみにいまも映画館で働き続けています」

 

――では、どのようなアイデアから生まれたのでしょうか?

 

「まず、僕は家族の物語に心を惹かれるところがあるんです。なんで心を惹かれるのか理由は自分でもよくわからないんですけど、家族というコミュニティには、幸せや不幸、悲しみや喜び、そういったあらゆることが詰まっているというか。たとえば縁を完全に断ち切ったとしても、どうしたってついてまわるものがある。愛情が深くても逆に浅くてもなにかハレーションを起こすことがある。そして、それぞれの家族の形みたいなものがある。それぞれの立場によって家族の景色は違ってみえる。なにか、いかようにもとらえられるところがあって面白いなと思って。なので、家族についての物語を作りたい。その気持ちが第一にありました。

 

そこで家族劇となったときに、真っ先に是枝裕和監督の『海街ダイアリー』みたいな作品を作りたいと思ったんです。それこそ体調を崩していたとき、是枝監督の作品はめちゃくちゃ見ていて、『海街ダイアリー』を3回連続で見たりするぐらいでした。

 

で、『海街ダイアリー』みたいな家族の物語にしたいと思って、安易なんですけど、ならば舞台は港町だよなと思って。そこから話が飛ぶんですけど、港町といえば真利子哲也監督の『ディストラクション・ベイビーズ』の港町もいい、やはり家族の物語をやるとしたら港町、しかもすこし寂れていて閉塞感が漂う港町がいいなと思って、そこから想像を膨らませて脚本を書き進めていきました。

 

なので、わかる人はわかると思うのですが、オープニングのショットは完全に『海街ダイアリー』のオマージュです」

©2024 川上 栄輝

――作品は、13年前に殺人事件を起こし服役していた母の葉子が出所。その間を施設で過ごした娘の朱莉は、母を受け入れ静かな港町で一緒に暮らすことになります。ただ、13年のブランクはそう簡単に埋まらない。罪を犯した葉子には娘に迷惑をかけたうしろめたさがある。一方、朱莉もそう単純には母のことを受け入れることはできない。

 

自分の犯したことの重大さを噛みしめながらどうすれば母として家族として認めてもらうことができるのか答えの出ない葉子と、これまでのことをそう簡単には清算できない、でも母だから愛情がないわけではない朱莉、それぞれの揺れ動く感情が丹念に描かれています。

 

「先ほどお話ししたようにまずは家族の物語を描きたくて、港町を舞台にしたいと考えました。

 

それからもうひとつ少し重いテーマにチャレンジしたい気持ちがありました。

 

そう考えたときに、それこそ是枝監督は『万引き家族』が代表例で、血のつながりがなくても家族という形があるのではないか、たとえ血がつながっていなくても父と子や母と子のような関係は築けるといった、いわば血のつながりにとらわれない家族の在り様みたいなことを描かれている。

 

であれば、僕はその逆を描いてみたいなと。血のつながりがあったとしても必ずしも家族になれるわけではない。血のつながりがあるからこそ、家族であるからこそ、時には関係を断ち切ることも必要ではないか?そういうことをテーマにしてみてはどうだろうかと考えました。

 

で、血がつながているからといって必ずしも家族で居続けなければならないのか、別の選択をしてもいいのではないかと個人的には思うんですね。

 

そこで、血のつながりと家族に縛られてなかなか離れられない朱莉の視点から、家族について描ければと思いました」

 

――物語のひとつ鍵を握る人物として拓真がいます。彼は朱莉と同じ施設で育っていまは近所で暮らしている。朱莉にとっては唯一といっていい心を許せる相手で心の支えになってくれている。あまり語られてはいないのですが、彼もまた血のつながりと家族にしばられてそこからなかなか離れられていないように見受けます。

 

「実は、朱莉と拓真の視点から描いてもいいのではないかと思ったぐらいで。拓真のことをもっともっとクローズアップして描きたかったんです。でも、ほかとの兼ね合いでそこまでてきなかったんです。いつか、拓真を前面に押し出したスピンオフ企画をできないかなと思っているぐらい思い入れのある人物です」

 

――朱莉役が重要だったと思います。詩歩さんが、複雑な立場に置かれる朱莉を実に的確に演じられていて印象に残りました。

 

「詩歩さんはオーディションで選ばせていただきました。

 

当初、朱莉役は悲壮感が漂うというか。どこか冷めていて人生を諦めているような感じに見える人がいいかなとイメージしていたんです。ところが、詩歩さんの”演技”を見た瞬間に朱莉は人生を諦めてなんかいない。ここまで懸命に生きてきた強さがある。詩歩さんにそのことを気づかされました。それで詩歩さんにお願いすることにしました。

 

ほんとうに朱莉をしっかりと演じてくれたと思います。重いテーマではありますけど、そこまで湿っぽい話に感じないものになったのは、彼女の功績が大きいと思います。朱莉の強さや自分らしく生きる姿が希望のある物語にしてくれた気がします」

©2024 川上 栄輝

――完成した作品が入選しました。

 

「素直にうれしいです。入選を知らせるメールを受け取って見たときに『また(映画を)作りたい』と瞬時に思いました。映画祭への入選ってこんなにモチベーションを上げてくれるものなんだと、自分でもびっくりしましたね。それと、どうにかして一人でも多くの方に見てもらいたい気持ちがあったので、今回の映画祭を皮切りにもっと広まっていってくれたらうれしいです」

 

――いまは映画館で働きながら、映画の現場に手伝いに入ったりして、自分の作品作りを模索するといった日々ですか?

 

「そうですね。いま個人的にはシナリオ熱が半端なく高まっています。とにかく面白い脚本を書きたいなと、ひたすら書いています。『さざなみに揺れる手』で自己資金を使い果たして、現在絶賛資金回復中なのですが(笑)、どうにかして来年か最低でも再来年には自分の映画を作りたいです」

 

――公式サイトの監督コメントに「優しく生きる」が僕の人生のテーマで、自分の創作を通して様々な「優しさ」を追求していきたいと思っています、とありました。そのような映画を作っていきたい。

 

「ええ。まずひとりの人間として優しくありたい。でも、優しくあるには自分自身が強くならなければならない。そう強くあろうとすると絶対に苦労するんです。損をすることもあるだろうし報われないこともある。でも、それでも優しくありたい。優しくあることで得た強さは真の強さだから、困難があったら乗り越える力になってくれるだろうし、いつかまたなにかの力になって自分に返ってくることがある。そう信じています。大事なとき、苦しい時期に人に寄り添える人でありたいです。そして、自分の映画を通して、人の優しさを伝えたい。優しさを伝えることでその人が優しくなれるような映画を作れればと思っています」

 

 

『さざなみに揺れる手』作品詳細
取材・写真・文:水上賢治


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