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【インタビュー】『死神は待ってくれる』木下一心監督
――「死神」という存在をテーマにして、いまを生きる若者の等身大の姿を描いています。企画はどのようにスタートしたのでしょう?
「いま大学三年になるのですが、この作品は大学一年のときに撮影しました。大学の映画学科に進んだのですが、僕はとにかく少しでも早く映画が作りたくて、まだ同期の名前も覚えていない入学して間もないころから実現できそうな企画はないか考えていました。で、なにがなんでも夏に1本映画を撮ろうと思ったんです。そのときに、自分の勝手なイメージですけど、死神=お化け=夏っぽいとつながって、死神をモチーフに脚本を書き始めました」
――作品は、大学生の森見の前にある日突然、死神が出現。ひょんなことから森見は死ぬまでに二日間の猶予を与えられ、その間、死神と共同生活を送ることになります。それまでどこか空虚な日々を送っていた森見ですが、死を意識することで生について考えるようになっていきます。
「この脚本にとりかかっていたころ、まだ大学に入って数カ月ぐらいのことですけど、僕はまったく馴染めないでいたんです。それで、まあ周囲を俯瞰でみていたんですけど、けっこう『つまらない』とか、冗談ではあるんですけど『もう死にてぇ』みたいなことを言うヤツがいっぱいいて、正直なことを言うと腹立たしかった。いや、そんなこと言っている暇があったら、作品を作ればいいのにと思ったんです。そのことが森見というキャラクターに反映されたことは確かです。それとともに森見には自分の考えも反映させています。たとえば、死神じゃないですけど隕石が落ちることが確実で2日後に世界が滅亡するとなったとき、自分だったどうするかなとか想像する。特別なことはしないかもしれない。いつも通りルーティンの散歩に出かけるかもしれない。いつも通りすごせて、今日もいい日だったと思えたらそれはそれでいいんじゃないかとかと。そんな自分なりの最期みたいなことも考えて、森見に投影したところがあります。そのことが、森見が死に曝されることで生に再考していく物語へとつながっていった気がします」
©木下組2024
――また、死神と向き合い、死を意識することになった主人公の森見の姿から、いまの若者が抱えている孤独や閉塞感、人間関係の煩わしさなどが浮かびあがってくる印象を受けました。
「そのことに対する答えになっているのかわからないのですが、たとえば、僕はけっこうYouTubeなどのショート動画を見て、気づいたら数時間経っていて、ほんとうに無駄な時間を過ごしてしまったと愕然とするときがあります。そんなときに、自分はこんなことでいいのか?と自分で自分に呆れるときがある。
また、友達からの誘いを別に予定があるわけでもないのに漠然と面倒くさくて断ってしまうことがある。そういうときも、『人としてどうだ?』と思うことがある。ほんとうに自分ってダメだなと思うことが多々あるんですね。でも、周りの同世代に話を聞いてみると、みんな多かれ少なかれそういうところがある。それって『共感』を得ることができるポイントだと思うんです。だから、作品を作るときに僕自身の肌感覚を大切にしようと思ったところはありました。変に背伸びはしない。かっこつけない。自分が感じていることを素直に出すことはこころがけました。そうすればきっと食いついてくれる人はいるんじゃないかと思ったので」
――ただ、「死」という重いテーマを扱っていますが、決して暗い物語で終わってはいない。ある種のユーモアを与えているのが死神の存在だと思います。死神というとパターンとしてはおどろおどろしい存在を想起すると思います。でも、本作の死神は変わっているというか。タイトルにあるように、主人公の森見の死を情状酌量で少しだけ猶予期間を与えて少しだけ待ってあげる。人情味があったりちょっとドジなところがあったりと、なかなかユニークな死神像になっています。
「死神についてはフィクションの世界の存在なので、そこは思いっきり想像力を働かせて自由にクリエイションしていいなと思いました。たとえば、『ビートルジュース』って幽霊の世界ですけど、ひとつひとつは人間の世界に当てはめてある。だから、幽霊なんですけど、やっていることが実は人間臭かったりする。死神をそういう感じにしたかった。それで、持っているカマが実はあの世とつながっている携帯電話だったり、頭に紙袋の面をかぶせることでちょっと得体のしれない雰囲気を出したりといった演出を加えて、異世界の存在なのだけれども人間ぽくもある存在にしました。死の使者である怖さを携えながらも、どこか人間の心もわかってくれるキャラクターに仕上がったのではないかと思っています。
話が少し横道にそれるんですけど、今回の映画作りで僕が一番楽しかったのは何を隠そう今話した、死神の手にしているカマや頭にかぶっている紙袋といった小道具を作っているとき。すべて自分で作ったんですけど、この小道具を作っているときが一番ワクワクしていました(笑)」
――クレジットを見ると、監督、撮影、編集をはじめほとんどのことを一人で手掛けていますね。
「はい。小道具もそうですけど、音楽も大学に入ってから初めて作り始めたので、まだまだ未熟で、今聞き直すと『全然だめじゃん。いまだったらこのときの何倍もいい音楽をつけられる』と思ったりもするんですけど、それを言いだしたらきりがない。この時点で自分がベストを尽くして出来たのがこういうものだったでいいんじゃないかと思っています。今は、いろいろなことをとにかく自分で一度やってみる。一通り経験してみて、自分の映画作りを確立していければいいのかなと思っています」
――出演者はどういった方々なのですか?
「森見を演じてくれた濱崎(優太)くんをはじめほとんどが友達です。途中でクジラの絵を描いている学生が出てきますけど、彼女は美術学科ですけど、ほかの出演者はほぼほぼ大学の映画学科の同期です。スタッフもほぼほぼ友人です。
『ごはんおごるから』とか言ってお願いして、なんとかみんな納得してくれました(笑)」
©木下組2024
――じゃあ出演者の方たちはほとんど実は作る側を目指している人たちということですね?
「そうです。だから、実は撮影はすごくスムースだったんです。みんなふだんは作る側にいるから、僕がこういうショットにしたいと指示すると、すぐにわかってくれてそのように動いてくれる。友達だから意見も言いやすいし、思い返すとすごく楽しい時間でした。時たまケンカしたこともありましたけど、毎日ワクワクしながら撮影をしていました。ちなみに森見が住んでいるアパートは、濱崎くんの自宅を提供してもらいました(笑)」
――では、ここからは少しプロフィールの話を。なんでも中学生の頃から映画制作を志していたとのことですが?
「小学5年生の時に『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を見たことがきっかけです。それまで映画は好きで映画館にもよく行ってたのですが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のオープニングの映像をみたときの衝撃がまったく別モノでした。『これが映画か』と思って、頭から離れなくなって、しばらくオープニング映像のことを考えていました。その後、7回ぐらいリピートして、当時、マーベル映画が大流行していたんですけど、自分はもう(マーベルは)見ないというぐらい『スター・ウォーズ』にはまりました。そこから遊びの範疇ですけど、映像を作り始めました。その気持ちは年を重ねても変わらなくて、高校も映像芸術科のある学校に進学して、そこでは物語のある映画というよりも主に実験映画に取り組んでいろいろな映像表現にトライしました。そして、いま大学の映画学科に進んで学んでいます。
『スター・ウォーズ』の後も、たとえばティム・バートンの映画が大好きになったりもしましたけど、やはり一番の影響をうけたのは『スター・ウォーズ』。あのとき、出合っていなかったら、この道に進んでいなかった気がします。
実は『スター・ウォーズ』のオープニングのようなことを、『死神は待ってくれる』でもしたかったんですけどできなかった。その反省を生かして、今年撮った作品ではこだわりにこだわったオープニングの映像を作りました」
――そのような経緯を経て完成させた初長編映画が入選しました。
「入選の知らせを受けたときはびっくりしました。自宅が大学から遠くて朝から授業があるときは、いつも6時前には起きるんですけど、まだ薄暗い中、スマホを見たらなんかメールが入っている。みたら、入選とのことで。思わず寝ている母親を叩き起こして、伝えたら一緒に喜んでくれました(笑)
あと、『意外』とも思いました。というのも、『死神は待ってくれる』は大学一年のときに撮影は終えて、2年になるかならないかぐらいに完成しました。そのあと、僕は次の作品にとりかかって、現在三年ですけど、すでに2本に完成させた作品がある。企画が進行中の作品も何本かあります。だから、『死神は待ってくれる』ははるか前に撮ったような感覚があって、『いま入選したか』と正直思いました。
濱崎くんも僕と同じような感覚があったみたいで……。母と喜びを分かち合った後、すぐにこの件を話したんですけど、『そんなの撮ったっけ』って覚えていない。まあ、冗談だったかもしれないんですけど、説明したら思い出して『おめでとう』と言ってくれました。
ほんとうに汗まみれになって仲間と一緒に一生懸命作った作品なので、映画祭という場でみなさんに見ていただける機会ができてうれしいです」
『死神は待ってくれる』作品詳細
取材・写真・文:水上賢治