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【インタビュー】『ブラックホールに願いを!』渡邉聡監督
――あとでお話しいただきますが特撮作品に関する仕事にずっと携わってきて、着々と自分で作る特撮映画の準備を進めてきたのかなと思います。長編の特撮映画を作るのは、ほんとうに大変だと思いますが、プロジェクトとしてはどのような形でスタートしたのでしょう。
「企画としては9年前の2016年に始動しました。2016年の7月29日に公開された『シン・ゴジラ』に、僕自身はスタッフとして参加しました。少し生意気な物言いになってしまうのですが、脚本を読んだときに、ここまで傑作になるとは想像していませんでした。完成した作品を見たときに、これまでの人生で最大規模ぐらいの衝撃を受けたんです。『これはすごい』と。しかも僕だけじゃなかった。僕が監督した短編映画『限界突破応援団』(※第38回ぴあフィルムフェスティバル入選作)を一緒に作ったメンバーもみんな口々に『日本映画でここまで面白い映画がくるとは思わなかった』みたいなことを言う。『シン・ゴジラ』の面白さにみんな感化されて、じゃあ我々も負けないような映画を作ろうと、みんなで決起したことから始まりました」
――そこからどう動いていったのでしょう?
「なんとなく『5年間ぐらいかけて作れたらいいね』みたいな話からスタートして、はじめの3年間ぐらいはひたすらどういう企画をやりたいかをずっと話し合っていました。どうせやるならばみんなが納得のいく企画で進めたいという思いがあったので、ひたすら会議をしていました。3年もかけるつもりはなかったんですけど(苦笑)。
自分たちの強みは特撮撮影や映像エフェクトになるので、自主映画でやるにせよ、どこかに企画を持ち込んでやるにせよ、いずれにしても資金の問題は生じる。映像のクオリティと予算的に成立するかのせめぎ合いで、ギリギリのラインをずっと探っていました。4人のメンバーで考えていて200以上の企画を検討し続けていました。
そんな感じで2019年になっても検討が続いていたんですけど、12月ぐらいに、J・P・ホーガンのSF小説を原作にした星野之宣先生の漫画『未来へのホットライン』を読んだときに、タイムトリップをはじめとした時間をうまく利用したSFならば、映像エフェクトの量を少なくしても、本格的な特撮作品として成立できるのではないか、という気がしたんです。僕としてはいまやれるのは、これ以外ないと思いました。そのビジョンが見えたときに、現在の作品のほぼ完成形と同じプロットを思い付きました」
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――作品は、西暦2036年の近未来が舞台。人工ブラックホール研究所の赤城教授(鳥居みゆき)が、人類への復讐と時間犯罪を起こす。その影響で研究所の吉住あおいが時間遅延フィールド「ボブル空間」に取り込まれてしまう。研究所で働く緊張すると声が出なくなる場面緘黙症を患っていた伊勢田みゆきは、以前から親しみを感じていた吉住を救出することを決意。世界を揺るがす時間犯罪の阻止と、人間の救出劇が展開していきます。
「なかなか言葉で説明するのが難しいSF設定になっているんですけど……。お恥ずかしい話、僕自身は科学アカデミー的なことにぜんぜん造詣は深くないです。ただ、高校のときに加速器(※電子や陽子などの粒子を光の速度近くまで加速して高いエネルギーの状態を作り出す装置のこと)の施設の存在を知って、『こんなことを研究しているんだ」と驚いたことを思い出して、そのことがブラックホールのことにつながる。また、たとえば時間が止まったりといった、時間に関して考えてアイデアを膨らませる。そういったことを組み合わせて脚本は出来ていきました。この物語でいろいろと起こる時間に関する事象に関しては、科学監修の方に入ってもらっていて、作中世界の科学法則の中では起こりえないことはほぼない設定になっています。
それから、ドラマ的なところの話をすると、実は出演していただいた鳥居みゆきさんの影響が大きいです。僕は鳥居さんの大ファンで、なにかのインタビューで20代の鳥居さんが『友だちが欲しくて頑張るんだけど空回りしてしまって結局できない。そのことにすごく苦悩している』といったことをおっしゃっているのを見ました。そこから、人間関係がうまく築けない女性を中心に置いたら、見てくれた方がちょっと応援したくなってストーリーにうまく入っていってくれるのではないかと考えて、このような物語になりました」
――ドラマもよく練られていると思いますが、やはり本作は特撮映像に目がいきます。これだけの映像をどのように作っていったのでしょうか?
「そういってもらえるとありがたいです。極論を言うと、時間の止まるシーンに関しては、役者さんに実際に静止してもらって、その周りをカメラで動いて撮れば、そういうシーンになるので、それならお金もかからずに済む。そこは割り切って、逆にロケーションや実写での撮影、画作りなどはできるだけリッチにしたいと思いました。
とはいえ、撮影時間は限られるので、特に特撮ではないお芝居のところも、iPhoneやGoProなども含めてできるだけ多くのカメラで撮ることにしました。それと特撮が絡むところに限らず、プリビズを作って、撮影前にどういうものにするのか目に見えるようにしておく。いずれも『シン・ゴジラ』のやり方ですけど、そこは踏襲しました。
それから、僕自身がふだん特撮の仕事を死ぬほどやっているので、これはCGにすればいける、これはグリーンバックならいける、これは実写で撮り切らないとダメ、みたいなラインが自分の中にはあるんですね。その中で、本作で映像エフェクトが絡むような場面に関して言うと、劇中で起きる超常現象的な現象も含めてできるだけ撮影現場で実際に起こすようにしています。ですから、たとえば劇中でペンが浮いているシーンがありますけど、実際にペンが浮いて見えるように現場で撮影しています。それから、グリーンバックで撮ったシーンも、おそらくみなさんが想像するよりもかなり少ないです。ビルが崩壊するところなど3DCGを使っているところもありますけど、ほぼほぼ実際に現場で撮ることを基本にしていました。
あと、交渉の末、軍艦島と高エネルギー加速器研究機構(KEK)での撮影の許可が下りたので、この場所を生かさない手はないなとの気持ちもありました。
言葉で説明してもなかなか伝わらないので、特撮に関してはまずは映像を見ていただければと思います」
――キャストについても伺いたいのですが、主人公の伊勢田みゆき役を、俳優としてはもちろん映画監督としてのキャリアも積んでいる米澤成美さんが演じて、吉住あおい役を『センターライン』の吉見茉莉奈さん、山之辺真人役を斎藤陸さん、そのほか、『カメラを止めるな!』でおなじみの濱津隆之さん、監督が大ファンの鳥居みゆきさん、大ベテランの螢雪次朗さんなど、錚々たる顔ぶれが集まっています。
「まず、主人公の伊勢田みゆき役の米澤さんに関しては、福岡インディペンデントフィルムフェスティバルに行ったときに彼女の主演映画『つむぎのラジオ』をみました。そのときに、僕の感覚でしかないんですけど、鳥居みゆきさんと同じ匂いを感じたんですね。それで彼女にお願いしようと思いました。
大ファンの鳥居みゆきさんは、前に勤めていた制作会社で一度ご一緒したことがあって、そのときに、こういう企画があるのでぜひお願いしますと事務所のマネージャーさんに直談判したら受けてくださいました。
濱津さん、螢雪次朗さんはほんとうに知り合いの知り合いぐらいの人のつてでダメもとでお願いしたら受けてくださいました。
あと、伊勢田みゆきとともにもう一人の主人公といっていい吉住あおい役の吉見さんは、オーディションです。ただ、実はプロットを書いている段階で吉見さんをイメージしていたところがあって、最初の役名は仮で『吉見』としていたんです。そして、いざオーディションをしたら、吉見さんが受けてくださっていてびっくりしました。
オーディションに参加されたみなさんはたぶん、これはどういう物語なのだろうと思ったと思うんですけど、吉見さんはさすがプロで、すぐにその役になって的確に演じてくださってすばらしかったです。あと、山之辺真人役の斎藤陸さんがすごくて。僕もびっくりするぐらいブラックホールのことをはじめこの作品に関する科学的なことを全部、勉強されてきていたんですよね。たぶん、誰よりもこの映画で描かれる内容を理解していたのは斎藤さんだと思います」
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――苦労して完成させた作品が入選しました。
「入選の知らせを受けた頃というのが、いろいろと仕事が立て込んでいたのとそのプレッシャーでもう夜も眠れないみたいなことになっていたんです。精神的に参っている状況になっていました。それに追い打ちをかけるじゃないですけど、SKIPシティをはじめいろいろな映画祭に応募したんですけど、なしのつぶてで。さらに上映の相談を劇場さんだったり、配給さんだったりをいくつか当たったんですけど……。けっこう好みが分かれるみたいで、まったくいい返事がない。
こんな状況のときにメールをいただいたので、はじめはにわかに信じられなかったです。実はこの後ダメになってぬか喜びになるんじゃないかと最初は疑心暗鬼になっていました。いまこうして取材を受けたり、映画祭の事務局の方とやりとりをしたりして、ようやく入選したことを実感しています」
――ここからはこれまでのキャリアについて少し伺えればと。映画が好きになったきっかけは?
「よくぞ、聞いてくれました。自分では覚えていないですけれど、僕が生まれて初めて喋った言葉が『ゴジラ』なんです。いまだに実家に帰ると近所の人たちから『まだゴジラが好きなの?』と言われるぐらい、ゴジラが大好きだったんです。だから、『この映像を作るにはどうやら映画監督というものになればできるらしい。じゃあ映画監督を目指そう』と気づいたら思っていて、いつからか『映画監督になる』と心に決めていました。だから、監督をいつから目指したのか明確な日は覚えていないんです。とにかく『ゴジラの監督をやりたい』と子どものころからずっと言い続けてきました」
――影響を受けたのも、やはりゴジラ映画や特撮映画?
「それも当然あるのですが、もしかしたら作り手として影響を受けたのは、アニメーション作品の方が大きいかもしれません。たとえば『進撃の巨人』とか、『コードギアス』シリーズとか、日本のアニメーション作品にクリエイターとしての影響を受けている気がします。監督では、庵野(秀明)監督は避けて通れないんですけど、自分がゴジラ映画を目指している以上は除外させてください(笑)。そのほかで言うと、意外と思われるかもしれないですけど、フランク・キャプラ監督が好きです」
――『ブラックホールに願いを!』を作るきっかけになった『シン・ゴジラ』ではB班美術見習い、福岡市美術館での「ゴジラ展 大怪獣、創造の軌跡」のCM監督、その後もウルトラマン・シリーズなど特撮の現場を経験して、『ゴジラ』の監督に一歩ずつ着実に近づいているのではないでしょうか?
「そうなればいいのですが、どうでしょう。でも、諦めないでいつかゴジラ映画を監督できることを信じてこれからも頑張っていきたいです。
『ブラックホールに願いを!』はいろいろと足りないところ、反省点はあるんですけど、やれることはやり切ったと思っています。本作は、設定や物語の世界というのはSFであることは確かです。でも、自分としては特撮作品として撮っていて、あらゆる面で特撮のアプローチで取り組んでいるので、特撮ならではの映像のダイナミックなグルーブ感を楽しんでもらいたい気持ちがあります。
あと、ここまで『特撮、特撮、ゴジラ、ゴジラ』と言っておいてなんなんですけど、さきほどフランク・キャプラ監督が好きといったように、ホーム・ドラマやヒューマン・ドラマといった作品も撮りたいと思っているので(笑)、なにかありましたら声をかけていただければと思います」
『ブラックホールに願いを!』作品詳細
取材・写真・文:水上賢治