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【デイリーニュース】Vol.05『ディッシュアップ』池本陽海監督、青柳翔、三河悠冴 Q&A

国際都市川口にふさわしい微笑ましいラブ・ストーリー

ディッシュアップ』池本陽海監督、三河悠冴、青柳翔

映画祭2日目、最後の上映は特別上映作品『ディッシュアップ』。SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザが、若手映像クリエイター支援事業として製作したSKIPシティ インキュベート作品だ。

 

監督は、2023年の本映画祭で国内短編部門優秀作品賞を獲得した『猟果』の池本陽海(みなみ)監督。メイキングの撮影や映像編集に携わってきた池本監督の初の長編劇映画となる。

 

父を亡くし、亡き母の名前を付けたお食事処「ゆりえ」を継いだ主人公・譲治(青柳翔)。料理人としての腕は確かなのだが、ぶっきらぼうで人あしらいが苦手な譲治の店は繁盛店とは言いにくい。店で働くのはお気楽なフリーターの洋平(三河悠冴)だけ。そんな「ゆりえ」に韓国人のキム・ジュリ(ハ・ヨンス)が現れ、押しかけ料理人見習いとなる。価値観の違いや、彼女の奔放で自由な発想に振り回されつつも、距離を縮めていく2人。相変わらず店の経営は苦しいが、あることをきっかけにキムが町の人気者となり、店にも行列ができるようになるが……。

 

7月19日(土)17時50分からの映像ホールでの上映後、登壇したのは、池本監督と青柳翔、三河悠冴(ゆうご)の3人。劇団EXILE所属でドラマや映画・舞台で主演級の活躍をする青柳と、ドラマや映画で印象的な脇役を演じる三河は、監督と旧知の仲だそう。青柳曰く「悠冴と監督は友だちだもんね」。三河も、監督も「そうそう」と応じる仲の良さ。始終笑いの絶えない舞台あいさつになった。

 

青木の演じる譲治はそろそろベテランの域に入る料理人。削りたての鰹節でとっただし汁にこだわる、年の割に昔かたぎな料理人である。包丁さばきも見事という設定なのだが、「料理ですか……。全くしないわけじゃないけど、かつら剥きはしません(笑)。監督には最初にかつら剥きはできませんと言いましたが、かなり苦労しました(笑)」と青柳。この大根のかつら剥きが譲治とキムのつながりを表す重要なモチーフになる。料理修業をしたいというキムに譲治が出した課題が、かつら剥きができるまでやるというものだった。キムのかつら剥きが上達するにしたがって、二人の距離は縮まっていく……。

 

「最初脚本もらった時は、変な話だなぁって思いました。かつら剥きが二階から外まで続いているとか書いてあった。なんだこれ? って(笑)」と三河。青柳も「変だとは思った(笑)」といいつつ、「でも完成したのを見ると、なるほどなぁと思いました。監督は、やりたいことがしっかり見えているんですよね」とフォローする。「そうですね。やろうと思ったことはフルスイングでやりました」と池本監督は満足げに答える。

 

キム・ジュリを演ずるのは、NHK連続テレビ小説「虎に翼」などにも出演する、日本でも活躍中の韓国のモデル兼俳優ハ・ヨンス。日本語はうまいのだが、ときどき解釈があやふやで譲治や洋平とかみ合わない設定だ。

 

「キムも、キムを演じたヨンスさんも純粋でまっすぐなだけ。嫌味を言ったりしない」と青柳。人生のままならなさにちょっとひねくれて悲観的になっている譲治とは対照的な女性だ。「ヨンスさんは、コミュニケーションが上手」と監督が言えば、「現場が明るくなる」と青柳。「ピュアで努力家なんです」と監督。「ヨンスさんだけじゃなくて、ぼくの恋人になるベトナム人トトさんを演じたドン・ニャット・クインさんも誠実で純粋」と三河。楽しく国際的で多様性に富んだ現場だったようだ。

 

「大変だった撮影は?」の問いにしばらく考えていた監督。「最後の、子どもたちとのサッカーのシーンかな。時間に追われて焦っていたし、最後を締める大切なシーンだし……」

 

サッカーは、本作の大事なモチーフの一つだ。キムは、親が子どものころ日韓共同開催のワールドカップで来日し、和食体験をしているという設定。青柳自身にもかつてサッカー少年だったという経験がある。おいしいごはんとサッカーは国境を超えるための大切なアイテムなのだ。

 

大変だったシーンを聞かれた青柳が「道でサッカーボールを蹴るシーンが大変でした。何テイクも撮ったので」というと、「え、そこ切られてたでしょ。見てた?」と三河。「切りました。でも大変だったよね、何回もやったのに」と池本監督。「すまないとか思うの?」と三河が詰め寄ると、「思わない」と監督。ショックを受けたのはカットされたことに気が付かなかった青柳だけだった様子。大笑いの内に舞台挨拶時間が終了した。

 

10日間で撮影された『ディッシュアップ』。国際都市川口にふさわしく、そこはかとなく異文化交流が描かれるとともに、技能実習制度についての問題提起を潜ませた、微笑ましいラブ・ストーリーとなった。

取材・構成・撮影:まつかわゆま


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