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【デイリーニュース】Vol.08 縦型映画シアター「寄り道ドラマ作品(武蔵野美術大学映像学科)」シンクレア・ウィリアム監督、金一凜之介トーク

「制約を力に変える」──ムサビ生が挑む、TikTok発・縦型ショートドラマの現在地

寄り道ドラマ作品(武蔵野美術大学映像学科)」(左から)シンクレア・ウィリアム監督、カメラマンの金一凜之介

 

多目的ホールにて行われている企画展「デジタルネイティブが視る 映像のカタチ」で設置された縦型映画シアターにて「寄り道ドラマ作品(武蔵野美術大学映像学科)」が7月20日(日)15:40に開催された。

 

今回上映されたのは、女子高校生向けTikTokショートドラマアカウント「寄り道ドラマ」投稿作品のなかから、武蔵野美術大学映像学科の学生チームが手掛けた、『校則戦争』『告白阻止作戦』『MBTI別文化祭会議』の3作品。いずれも高校を舞台にした縦型短編作品で、学生生活のみずみずしさとポップさが映える作品となった。上映後、3作品の監督、脚本、編集を担当したシンクレア・ウィリアムとカメラマンの金一凜之介によるトークセッションが行われた。

 

縦6mの大きな縦型スクリーンを設置し、“一つの大きなスマートフォンを来場者が同時に視るかのような 今までにない縦型映画の視聴体験”を提供する本企画。スクリーン上映での感想を求められると、ウィリアム監督は「脚本の作り方や演出など、携帯で見るときはテンポが速いのであまり気にならなかったんですが、スクリーンで見ると普段見ている映画と全然違う」と、その差を痛感。

 

この分析を想定してか、実は監督は今回の上映にあたり一部編集を加えたという「TikTokアカウントの運営側の方針として、スキップされないように『3秒に1回効果音を入れてください』というのがあります。ただし、大画面で見た時にその情報量が頭に入るかなと思ったので、効果音を減らしたり、文字の細かい質感を変えてみたりしました。全体の質感は統一されて見やすくなったと思います」。

 

TikTokアカウント「寄り道ドラマ」向け作品を制作するという性質上、運営側の意向や予算、TikTokの特性を踏まえた作品づくりが求められる。そのある種“制約”についての考えを監督は明かした。

 

「TikTokはその性質上、自分から検索して動画を見るものではありません。自然に流れてくる動画をスキップするか、しないか。それを最後まで見てくれるか、くれないかで決まるもの。テレビのザッピングに近いですね。なのでどこから見ても分かるように台詞とか映像とか効果音とかを入れて、常に興味を引くような映像にしないといけない。そこを意識しながら作っています」。

 

この意識は現場でも反映されているという。金一カメラマンからは「(アカウントの)意向もあり、できるだけたくさん面白いリアクションや顔を撮るために、毎回3台のiPhoneを用意しています」と撮影体制について明かしてくれた。また、一眼レフという選択肢があるなかiPhoneを用いる利点として、スタッフが気軽に扱える点を挙げたほか、「演者さんには、カメラ慣れしていないインフルエンサーの方もいらっしゃいます。でも、そういう方でも、普段見覚えのあるiPhoneで撮ると違うなと実感したことがあります」と振り返った。

 

“制約”というキーワードが中心となった今回のトークセッション。しかし、ウィリアム監督はマイナスには捉えていないことを強調した。

 

「作品を作るにあたって一番意識したのは、その制約みたいなものを、どうにか言い訳にせずに作品の魅力に変えられないかということです。例えば、今回のタイプの作品ですと、短い期間で安く制作して、大量のカットを撮るという作り方でやっているものなので、どうしても撮影部分の粗が出てきてしまう。でも、その粗みたいなのを活かせる方法がないかと思って今回は、高校生のエネルギッシュな感じに対応して、文字の質感をちょっと荒々しくしたり、フィルムっぽい質感にしたり、夏のちょっと暑い質感みたいなものを加えることによって、その制約をちょっと良さみたいなのに変えられるかなっていう挑戦をしました」。

 

最後に今後の取り組みについて問われた2人。ウィリアム監督が「(TikTokは)テレビのザッピングに近いんですね。なので、テレビ的なことを縦型でやっている印象があります。縦型ならではの、つまりスマホで見るということはどういうことか、それを考える域まではまだいけてない。映画とか見ない人でも楽しめて、かつちょっとその画面の新しさがあるみたいな、そこのバランスが取れたものを今後探っていけたらなと思っています」と語る一方で、金一カメラマンも「スマホは、(スクリーンの)何十分の一、何百分の一のサイズ。だから逆に何を見せたらスマホだと面白くなるのかっていうのを頭の端っこに入れながら映像を作っていきたい」と話すなど、2人ともスマートフォンに向けた作品を作る意義について深く探求していく姿勢を見せた。

 

今回の作品は「縦型映画一挙上映」として、7月21日(月・祝)10時30分および15時50分にも多目的ホールにて上映される予定だ。縦型映像の魅力を、大スクリーンでぜひ体感してみてほしい。

 

取材・構成・撮影:河西隆之


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