ニュース
【デイリーニュース】Vol.09 XR映画のカタチ「Beyond the Frame Festival トーク」大橋哲也、待場勝利
映像は“観る”から“存在する”へ──XRが拓く新しい映像体験
(左から)大橋哲也(株式会社CinemaLeap 代表取締役)、待場勝利(株式会社CinemaLeap 取締役/Beyond the Frame Festivalフェスティバルディレクター)
企画展「デジタルネイティブが視る映像のカタチ」では「XR映画のカタチ」と題した展示を実施。XR(クロスリアリティ)国際映画祭「Beyond the Frame Festival(以降、BTFF)」に出品された作品を、XRデバイスを用いて実際に体験できる形式で紹介している。多目的ホールでは7月21日(月・祝)14時30分から、同映画祭を主催する株式会社CinemaLeapの代表取締役を務める大橋哲也氏と、同取締役及びBTTFフェスティバルディレクターの待場勝利氏を迎えて「Beyond the Frame Festival トーク」を開催した。
冒頭、BTFFが掲げるXRについて待場氏より説明があった。
「我々はVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)を総称してXRと呼んでいます。ただし、海外のカンヌやベネチアといった映画祭でも同じような部門があるんですが、彼らはXRとは呼ばずに没入していくような作品として、イマーシブ部門として扱っていますね」
日本で唯一XRを扱った映画祭のフェスティバルディレクターを務める待場氏によると、日本は技術面、表現面で遅れているという。
「進んでいるのはヨーロッパで、それこそ映画祭でVR、XRを大きく取り上げている国は特に進んでいます。なかでもフランスはかなりのもので、XRでマネタイズのフェーズまで来ていたりします。アジアでは特に台湾、そして韓国も進んでいますね。先端技術を使った表現、クリエイティブな部分を考えると日本が圧倒的に遅れていると感じています」
「XR映画のカタチ」で紹介している3作品は、大橋氏、待場氏の両氏が選んだものだという。トークセッションでは両氏からそれぞれの見どころが共有された。まず1つ目は『Beat』(2020年/日本/12分)。プロデュースを手掛けた待場氏によると、「スクリーンで見る映画は、スクリーンを客観的に見る作品です。しかしVRの場合、体験者もそこに存在しなければいけない。それが自分のこだわりです。世界の中心に自分がいて、自分が無視された作品というのは寂しくなってしまう。『Beat』は最初にボロボロなロボットが目の前にいて、自分の鼓動をロボットに与えると動き出すという話なんですが、ユーザーがいないとロボットは動かない。つまり、ユーザーの存在が必要だということが、作品の見どころです」。
2つ目は『Van Gogh’s Palette -Short Version-』(2023年/フランス/10分)。ゴッホが晩年を過ごしたフランス・オーヴェル=シュル=オワーズのガシェ医師邸を舞台にした体験型アート作品で、巨大化したゴッホのパレットの上で物語が進んでいく。
「実はあのパレットは、本当にゴッホが使ったものを3Dスキャンでデータ化したものなんです。本物は触れないですけど、VRという新しい技術を使ってデジタル空間の中で本物と同じような感覚を持たすことができるわけです。ゴッホは色使いのことをどんなふうに考えたかとか」(待場氏)
3つ目は『Oto’s Planet』(2024年/ルクセンブルク、カナダ、フランス/28分)。ある惑星で独り静かに暮らしていた男オトの前に突如現れた宇宙飛行士。2人の文化や考え方のすれ違いからオトの静かな生活が崩壊していく。大橋氏はMRでなければ表現できない作品であると力説する。
「イメージしづらいかもしれませんが、眼の前に惑星が浮かんでみえます。これは従来の作りの映画でやろうとしてもなかなか難しい表現です。去年のBTFFでグランプリを受賞しており、評価が高かった作品です」
ここで紹介した3作品は“個人的な体験”として楽しむ作りになっている。一方で通常の映画は、複数人で同時に鑑賞するという楽しみ方もある。今後のXRの形態はどうなっていくのだろうか。両氏から今後のXR業界についての考えが披露された。
「たくさんの人で同時に体験するコンテンツがVRでは増えてきています。1つの体験をみんなで共有する技術は今すごく進歩してきているので、そういうことも可能になっていくんじゃないでしょうか」(大橋氏)
「展示したものはシングルプレイと言って、1人で体験するものです。(複数人で体験する)マルチプレイがXR業界のトレンドになりつつあるので、たぶん今年の年末から来年にかけてそういったことを体験できる施設が増えていくんじゃないかと思っています」(待場氏)
企画展「デジタルネイティブが視る映像のカタチ」の開催は7月21日(月・祝)まで。
取材・構成・撮影:河西隆之