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【デイリーニュース】Vol.16「短編②」『山のあなた』『そして、今日も生きる』『水底(みなそこ)のミメシス』『ラッキー・ストライク』Q&A

バラエティに富んだ4作品を集めたコンペ部門 短編プログラム②

左から『山のあなた』伊藤希紗監督、東龍之介、『そして、今日も生きる』サイラス・望・セスナ監督、しゅはまはるみ、『水底(みなそこ)のミメシス』茂木毅流監督、及川繕太郎、『ラッキー・ストライク』星野有樹監督、希志真ロイ

 

コンペティション部門の短編プログラム②には、バラエティに富んだ4作品がラインナップされた。静ひつな人間ドラマ、会話劇、アニメーション、記憶をめぐるロードムービーとジャンル、スタイルはさまざまだが、どの作品にも命というテーマが根底に流れていた。23日(水)、映像ホールでの上映後、各作品の監督、出演者がQ&Aを行った。

 

山のあなた』東龍之介(左)と伊藤希紗監督

 

ドイツの詩人カール・ブッセの同名の詩を原案とした『山のあなた』は、軽装で雪山を越えようとする青年が、病を抱えた老人との出会いによって一歩前に踏み出そうとする物語。大学卒業後、山田洋次、黒沢清、成島出らの助監督を務めてきた伊藤希紗監督が、「気が付いたら30歳手前になっていて、作品を発表する機会がなくまずいと思っていた時に大好きなブッセの詩にインスピレーションを受けた。それを膨らませて脚本を書いていったら、これから先どうするか、自分はどうすればいいかという心境が主人公にはまった」と説明した。

 

当然、真冬での撮影となり、「まずは移動、そしてロケ地の除雪が大変でした。予算や機材、スタッフ、キャストも寒い中なのでかなりしびれる経験でした。ロケ場所にスキー場をまるまる借りられたのは良かったんですけれど、雪山はもう、いいかな」と苦笑。青年役で主演の東龍之介は、伊藤監督とは旧知の仲で「同い年で、僕も鳴かず飛ばずという同じ悩みを抱えていて、何か1本撮れたらと思っていたので、互いにとって大事な1本になりました」と感慨深げに話した。

 

そして、今日も生きる』サイラス・望・セスナ監督(左)としゅはまはるみ

 

そして、今日も生きる』は、突然自殺すると告げた父親を妻と娘が必死に踏みとどまらせようとするシュールなドラマ。サイラス・望・セスナ監督が3年前に知人が自殺した話をベースに、日本で暮らしてきた外国人だからこそ受けてきた差別など自身の体験を加味。自ら父親役を演じ、生きることの意味を問いかける。

 

セスナ監督は、「日本で生まれ育った人はサード・カルチャー・キッドと呼ばれ、ハーフの人との間にもライバル関係があった。ハーフは日本人の血が流れているから日本語をしゃべるけれど、流れていない外国人がしゃべるのはおかしいと言われたこともある。大人になっても、いろいろなバイアスや差別的に感じることがある」と力説。そして、「多様性への理解は何よりも重要。それがあれば社会がよりクリエイティブになる」と訴えた。

 

セリフは日本語と英語が飛び交うが、「脚本に1年をかけたが、クランクイン直前まで書き直していた。日本人の台詞はこれでいいのかというところは、しゅはまさんがいい意味で全部書き換えてくれた」と、妻役のしゅはまはるみに感謝。そのしゅはまは、「初めての英語の演技、頑張りました。去年からレッスンを受けているので、もっとしゃべる役でもいけそう」と満面の笑みを浮かべた。

 

水底(みなそこ)のミメシス』茂木毅流監督(左)と声優を務めた及川繕太郎

 

武蔵野美術大学映像学科卒業の茂木毅流監督(長澤太一監督と共同)による『水底(みなそこ)のミメシス』は、AI型生物Shinoによって統制された社会から脱却を目指す人々を描くアニメーション。茂木監督は、「AI生物は、こうすれば大体いいものができるという図式として可視化されやすい、統合性や普遍性へのメタファーになっています」と説明した。

 

ラッキー・ストライク』の星野有樹監督(左)と希志真ロイ

 

ラッキー・ストライク』は、4年前に亡くなった友人のことを、認知症の彼の母親に伝える決意をした主人公がたどる一夜を、現実と幻想を交えながら描く。星野有樹監督は、「前作の『アイム・オールライト・ライト』が10年もかかってしまったが、出演した希志真ロイさんが気に入ってくれて『すぐ次を撮れ』と言われたのがきっかけ」と照れながら告白。今作でも主演の希志真は、「小さな映画たちの思いが届いて、家族や故郷のことを思い出していただけたらうれしい」と総括した。

 

取材・構成・撮影:鈴木元


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