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【デイリーニュース】Vol.20『死神は待ってくれる』木下一心監督、濱﨑優太、風間爽 Q&A
いろいろな人に見てもらう機会をいただき泣きそうです
『死神は待ってくれる』左から木下一心監督、濱﨑優太、風間爽
24日(木)、2本目の上映はコンペティション部門に選ばれた木下一心監督『死神は待ってくれる』。現在、大学3年生の木下監督が、1年生の夏休みに同級生らと制作した作品で、木下監督はこれ以降の作品がすでに2本あり、そのうちの1本は順番は逆になったが、他の映画祭で受賞を果たしたという。
平凡な大学生・森見のもとに、突然、死神が現れる。ひょんなことから死までに2日の猶予が与えられ、死神とまるで友だちとのような共同生活をすることになる森見。友人の大角と三谷は、森見が、理由らしい理由もなく遊びの誘いをスルーし、死神についてSNSに投稿するのを見る。心配した彼らがアパートを訪ねるが森見は不在。彼は、限られた時間を死神と過ごし、生きることの素晴らしさを少しずつ実感していた。冒頭、木下監督が「初めて大きなスクリーンで見ましたが、いいところも悪いところも全部見えた気がします。いろいろな人に見てもらう機会をいただき、本当にありがたくて泣きそうです」というと、主演の森見を演じた濱﨑優太、死神を演じた風間爽も大きくうなずく。
“死神”をモチーフにしたのは、大学に入学し、なにがなんでも夏中に1本撮ろうと考え、夏→おばけ→死神と連想したからだという。木下監督は、高校生の時にも死神をモチーフにした短編を撮っており、それが『死神はまってくれない』というタイトルだったことから、別の話ではあるが、森見に与えられた2日間の猶予も表せると『死神は待ってくれる』にしたのだとか。
撮影日数は、9日ほど。でも丸一日使えたのは3日くらい。あとは授業終了後に、必要最低限のキャスト、スタッフを集めて夜遅くまで撮影したという。ロケセットのアパートは、濱﨑の自室だったので、何回か「近所迷惑になるのでなるべく早い時間に撤収してほしい」と言われたと木下監督。ただし「演出をめぐっては、議論が勃発することはなかった」と濱﨑。「大変だったのは、僕が被っていた紙袋が視界と音を遮断するので、状況が把握しづらかったことです」と風間。「その分、自分の世界に集中できた感じはありましたが」。
大切にしたシーン、大変だったシーンについて聞かれると、濱﨑はラストの事故のシーンを、風間は冒頭の死神登場のシーンを挙げた。木下監督は、「屋上にあるガラス張りの部屋の奥で、女性が描いていたクジラの絵が泳いでいくところ」だと答えた。前からやりたかったシーンなのだとか。「クジラのブリーチング(跳躍)には、死者の蘇生というメタファーがあると読んでやりたかった。でも、うまく描けなかったので、泳がせることにしました」。木下監督は、この作品で演出、脚本、撮影、編集に加え、美術も担当している。
登壇したこの日、3人とも、グループで行う大学の必修授業の最終日だった。先生には、だいぶ前から事情を説明し、同じグループのメンバーにも頭を下げて、映画祭の舞台を踏んだ。
「ずいぶん前の作品なので、見ていて恥ずかしいところもありましたが、あの頃にしか出せないパッションは反映されていたなと思いました。見た方が、そこをおもしろいと思ってくださったらうれしいです」と木下監督。
「あの時期に、この作品を撮れたことは、僕にとってもすごく大きな財産だったと、先ほど見ていて感じました。瑞々しくて、弾けている、いい作品だと思います」と濱﨑。
「これまで身内しか見ていなかった作品を、こんなに大きなスクリーンでみなさんに見ていただいた。作品を見てもらうってこういうことなんだと初めて理解しました。ありがとうございました」と風間。
それぞれ映画祭に参加することの意義を、実感を持って獲得し、次なる一歩へと踏み出した。そう感じられるQ&Aとなった。
取材・構成・撮影:関口裕子