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【デイリーニュース】Vol.21『ブラックホールに願いを!』
渡邉聡監督、青井泰輔、米澤成美、吉見茉莉奈 Q&A
『シン・ゴジラ』に負けない作品を! VFXが話題のSF映画
『ブラックホールに願いを!』左から渡邉聡監督、青井泰輔、米澤成美、吉見茉莉奈
企画から8年、インディーズ映画の規模を超えたVFXが話題の『ブラックホールに願いを!』が24日、映像ホールでワールドプレミア上映され、上映後には渡邉聡監督をはじめ、主演の米澤成美、吉見茉莉奈、特技監督の青井泰輔らが登壇。長期にわたる制作の舞台裏や特撮へのこだわりを語り、観客からも次々と感想や質問が寄せられた。
コンペティション部門の『ブラックホールに願いを!』は、西暦2036年の近未来を舞台に、人工ブラックホール研究所を舞台に“時間犯罪”に立ち向かう若者たちの姿を描いたSF作品。時間遅延フィールド〈ボブル空間〉に閉じ込められた仲間を救うため奮闘する主人公・伊勢田(米澤)と、彼女が慕う吉住(吉見)の関係性を軸に、科学、記憶、そして個人の選択が交錯するスリリングな物語が展開される。鳥居みゆきや平成『ガメラ』シリーズで知られる螢雪次朗が脇を固め、CGやミニチュアを駆使した映像と、抑制された人間ドラマとが高密度に融合した意欲作だ。
監督を務めた渡邉聡は1992年、福岡県北九州市生まれ。幼い頃からゴジラやウルトラマンなどの特撮作品に魅了され、九州大学芸術工学部を卒業後、ぴあフィルムフェスティバル入選作『限界突破応援団』(15)などで注目を集めた。『シン・ゴジラ』(16)では美術部スタッフとして現場に参加し、その後もCMやご当地ヒーローのPV、特撮企画に携わるなど、ジャンルに根ざした表現活動を続けている。
本作の企画がスタートしたのは2016年夏。『シン・ゴジラ』を観て感銘を受け、「これに負けない作品を作りたい」という思いから脚本を執筆。「当初は5年計画だったが、気づけば8年。完成にこぎつけて感慨深い」と語った。
ロケ地には、高エネルギー加速器研究機構(KEK)や端島(軍艦島)を採用。特にKEKでは科学的リアリティが求められ、研究者への敬意を込めた脚本づくりが行われたという。観客から「ロケの規模や緻密さに驚かされた」という声が寄せられると、渡邉監督は「高校時代から粒子加速器に魅了されていました。この舞台で映画が撮れたのは夢のようでした」と応じた。
特撮パートは特技監督の青井泰輔が担当。予算を抑えるために1.5尺の極小ミニチュアを使用したが、レンタル料の高い高速撮影カメラ「ファントム」を投入し、ミニチュア爆破は1日で全カットを撮りきったという。
主演の米澤成美にとっては、本格的な特撮作品は初挑戦。「グリーンバックの芝居は難しかったですが、完成した爆破シーンを観て『もっと驚いた顔をしておけばよかった』と思いました」と笑顔で語った。一方、吉見茉莉奈は『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』3部作(25)や『センターライン』(18)など特撮作品への出演経験があり、その確かな存在感が買われて本作の主要キャストに抜擢された。「軍艦島ロケは一生の思い出。1度しか行けないと思っていたら、再撮影で2回行けました」と楽しげに語った。
物語の背景には、「分断と対話」という現代的な主題がある。監督は「初期は怒りや衝突を前面に出した物語だったが、社会状況の変化を受けて“希望を描くべきだ”という思いに至った」と話した。
時間SFの設定は、J.P.ホーガン原作、漫画化の「未来からのホットライン」や『X-MEN』シリーズのクイックシルバーに着想を得たという。観客からは「時間描写がとても自然だった」「設定が緻密で説得力があった」との声が相次ぎ、会場は作品の完成度への賞賛で包まれた。
最後にキャストが「この映画をようやく皆さんに届けることができて嬉しい」「SNSなどで感想を広めてください」と呼びかけると、渡邉監督も「これから劇場公開に向けて動き出します」と力強く宣言。コンペティション部門の締めくくりとして、ふさわしい盛り上がりを見せる上映となった。
取材・構成・撮影:平辻哲也