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【デイリーニュース】Vol.23 関連企画「武蔵野美術大学映像学科作品上映」Bプログラム Q&A
「新たなる才能を紹介できることをうれしくおもいます」
「武蔵野美術大学映像学科作品上映」Bプログラム(左から)小口詩子(武蔵野美術大学映像学科教授/映像作家・プロデューサー)、『シャオシェンの物語』格桑梅朶監督、『ただいま』劉波監督、『ピヨピヨ』呉近竹監督、『NEORIGIN』陳冉監督
映画祭の関連企画「武蔵野美術大学映像学科作品上映 Bプログラム」が25日(金)、映像ホールで開催された。学生たちが在学中に制作した短編映画5本が上映され、上映後には監督と教員によるトークイベントが行われた。
案内役を務めたのは、同大学映像学科教授で映像作家・プロデューサーの小口詩子氏。映像学科ではアニメーション、映画、写真、CG、メディアアートなど6領域が並行して存在し、学生たちは1年次で基礎を学んだ後、2・3年次で自由にカリキュラムを構築する。
小口氏は「絵を描ける人も、未経験から入る人も混在し、それぞれが異なるスタイルで成長していく。教員も“教える”というより、共に学び合う関係に近い」と語る。
今回は、『シャオシェンの物語』(2025年/20分)の格桑梅朶監督、Aプログラムの上映作『ただいま』(2022年/48分)の劉波監督、『ピヨピヨ』(2023年/15分)の呉近竹監督、『NEORIGIN』(2024年/36分)の陳冉監督が登壇した。4人とも中国からの留学生だ。
『シャオシェンの物語』は、格桑梅朶監督のルーツであるチベットを題材に、自らの家族史を織り込んだ物語。監督は、コンペティション部門で上映された『東京の青稞酒(せいかしゅ)』で主人公ゾマを演じている。チベットに暮らす少女シャオシェンの目を通し、伝統と変化の間に揺れる姿が繊細に描かれる。「もともとは長編を構想していたが、シャオシェンという人物の物語が強く浮かび上がった。父が刑事として関わった事件の記憶も背景にある」と語った。
『ただいま』は、劉監督が実体験をもとに制作した作品。遠く離れた友人の訃報を偶然知ったことをきっかけに、かつての記憶が呼び起こされるストーリー。「鹿児島の風景が故郷に似ていたので、舞台にしました。現実の出来事を時間を経て思い返すと、具体的な情景は薄れても、心に残る感情は確かにある。映像で表現したかった」と語った。
『ピヨピヨ』は、呉監督自身の人間関係の悩みから生まれた作品。「対立や葛藤をどう乗り越えるか、その答えを観客と一緒に考えたかった」との思いから、作品の最後にはQRコードが登場し、視聴者から「どうしたらよいか?」という答えを募る仕掛けが施されている。「自分で考えた問いの答えは、あえて今は見ていない。5年後、10年後に見返すつもりです」と笑顔を見せた。
『NEORIGIN』は、陳監督によるSF作品。リアルタイム合成が可能な「バーチャルプロダクション」技術を導入し、限られた予算と時間の中でフルCGの世界観を構築した。「高校時代からSF映画を撮りたかった。ようやく環境が整い、今回思い切って挑戦した」と語る。「一度完成させた後も、さらに半年をかけて編集を重ねた。教員のサポートもあり、授業を越えた学びの中で生まれた作品です」と振り返った。
上映後、小口氏は「このような機会をいただけたことに、まず深く感謝しています。学生たちと接する中で、『この作品も、あの作品も紹介したい』という思いが強く、本当にプログラム選定には悩みました。こうしてそれぞれの作家を紹介できたことをうれしく思っています」と語った。
また、本映画祭についても「昨年から少しずつ関わらせていただいています。これまでは比較的、海外作品に焦点を当てる傾向がありましたが、今後は国内の若い作り手たちにも光を当てていく流れが生まれていくのではないかと感じています。私自身、若い方たちの活動を支援していくことに長年関わってきましたので、そうした方向への発展してほしい」と期待した。
取材・構成・撮影:平辻哲也