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監督インタビュー vol.01

デジタルで撮影・制作された映像作品にいち早く焦点を当て、2004年にスタートして今年で9回目を迎えた「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」。新たな映像作家を見い出すメイン・プログラムの長編コンペティション部門で、将来が嘱望される世界各国の新進監督とともにノミネートされた国内3作品の監督に、それぞれ一問一答。

 

中野量太監督『チチを撮りに』

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」
長編部門(国際コンペティション)ノミネート作品

  

監督プロフィール

 

中野 量太(なかの・りょうた)

1973年 京都育ち。大学卒業後「映画監督になる」と飲み屋のトイレに書き残し上京、日本映画学校に入学し3年間映画作りの面白さに浸る。卒業後はマイペースで数本の自主映画を制作、数多くの賞を受賞。2008年、文化庁若手映画作家育成プロジェクトに選出され、35ミリフィルムで制作した短編映画『琥珀色のキラキラ』が高い評価を得る。独特の感性と視点で《家族》を描き続ける。

  

 

――まず映画監督を目指されたきっかけを教えてください。

 

昔から何かを表現するのが大好きで、例えば小学校の学芸会で劇をやるとなったら、主役というより裏主役で目立ってやろうというタイプだったんです。そんなこんなで大学時代はバンド活動をしていたんですけど、ここで限界が見えたというか(笑)。どう考えても自分は表舞台で脚光を浴びる存在ではない。裏方だなと(苦笑)。ただ、表現者でいたいと思ったとき、昔から映画が少し好きなことを思い出しました。それで大学卒業後、日本映画学校に進んだのですが、この3年間がもう楽しくて、楽しくて。自分の人生の中でも、これほど興奮する時間を過ごしたことはないぐらいでした。そこから映画作りに目覚めて、今に至っています。

 

――今回の作品は、女手一つで娘2人を育てあげた母親が、元旦那の死期が近い知らせを受けて、彼女たちに逢ってくるよう送り出す異色の家族ドラマ。その設定をはじめ、“家族”というテーマに対するアプローチがひじょうにユニークに感じました。

  

これまでの作品はすべて“家族”がテーマになっています。あるとき、知り合いから“いつもお前の作品は家族が片親だな”といわれて、初めて気づいたんですけど(笑)。
いつもなぜか家族もので、2ヶ月前に新作を撮ったのですが、これも家族劇です(笑)。僕自身が母子家庭で育ったという背景があるのかもしれない。どこか“家族”に固執しているところは確かにあるんでしょうね。ただ、よくあるホームドラマではなくて、僕独自の視点や角度から家族を見ることを常に心がけています。あと、これも“気づくと”なのですが、今回の『チチを撮りに』を含めて過去4作品になぜか火葬場が登場する(笑)。あの空間に流れる時間や空気に僕は確かに興味がある(笑)。

 

――それはもしかしたら人の生と死について何か思うことがあるのかもしれません。

 

そうかもしれません。今回の作品は今まで以上にそのテーマに迫っている気がします。

 

――そのドラマを描く中で、ユーモアをとても大切にされています。

 

僕は今村昌平監督がよくおっしゃられていた“重喜劇”と言葉が大好きで、ほんとうの笑いって悲しみと表裏一体で。笑いの裏には悲しみがあって、悲しみの裏には実は笑いが潜んでいる。それが垣間見えるのって、人間が一生懸命生きている瞬間であったり、人間がふとした瞬間に見せる愛しさや切なさのような気がする。そういう瞬間を映画に封じ込めたいと思っています。

  

――主演は『愛の予感』『ヒミズ』など数々の映画に出演する渡辺真紀子さんを起用されています。

 

昔から渡辺さんのお芝居が大好きで。ぜひ1度ご一緒できたらと願っていました。それで、今回、このお母さん役を誰にしようかとなったとき、渡辺さんだったらどう演じてくれるのかなと思って。ダメもとでお願いしたら、OKをいただけてうれしかったです。

 

――なにか出演者の皆さんに演出でしてもらったことなどありますか?

 

家族に見えないとどうにもならないので、撮影前に渡辺さんと娘役の柳英里紗さん、松原菜野花さんに一緒に台所に立って餃子を作ってもらいました(笑)。あと、柳さんと松原さんに、母の誕生日だからプレゼント買ってくるよう指示したり、母宛ての手紙も書いてもらったりもしました。僕はそういうのが画に必ず映ってると信じてやっています。

 

――目指す映画つくりを教えてください。

 

ちゃんと外を向いた映画。いまある社会と世界につながっている映画を作っていきたい。そうすれば世界中の人々に届くような普遍性をもった映画になると思っています。



(インタビュー・文章: 水上 賢治)

 

『チチを撮りに』 〔2012年制作/74分〕

17歳の女子高生、東村呼春はフリーターの姉・葉月と母の3人で暮らしている。ある時、母が14年前、女性と一緒に家を出て行った父親が末期ガンで余命わずかだと語り出す。更に二人に父親に別れのあいさつをし、その際デジカメで父の顔を撮影してくるよう言い付ける。翌日、二人は電車の乗り継ぎ、父が入院中の病院を目指すが、それと入れ替わるように母親の元には以外な連絡が入ってくる…。

 

©2012 ピクチャーズネットワーク/日吉ヶ丘ピクチャーズ

 

◯出演: 渡辺真起子、柳英里紗、松原菜野花、滝藤賢一、二階堂智、小林海人、今村有希、星野晶子

映画祭2012ガイドPDFダウンロード

 

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