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【デイリーニュース】vol.15 『おろかもの』芳賀俊監督と出演者 舞台挨拶/Q&A

「SKIPに帰ってこられて感激」信頼する仲間たちと作り上げた人と人とのつながり

(左から)『おろかもの』の脚本家の沼田真隆さん、村田沙希絵さん、広木健太さん、芳賀俊監督、村田唯さん、笠松七海さん、猫目はちさんイワゴウサトシさん

 

映画祭4日目。国内コンペティション長編部門『おろかもの』は、日本大学芸術学科の同級生で、卒業制作でも監督と撮影監督として組んだ鈴木祥と芳賀俊コンビの、初の長編監督作品となる。芳賀監督の撮影助手デビューは、6年前、SKIPシティの敷地にオープンセットを建てて撮影をした、周防正行監督の『舞妓はレディ』(14)だったそう。「あの時、セットで毎日怒られながら見上げていたSKIPシティに、こんな形で帰ってこられて感激しています」と芳賀監督は言う。

 

高校生の洋子は、結婚を間近に控えた兄・健治が、美沙という女性と浮気をしている現場を目撃。好奇心から美沙に近づいた洋子は彼女に惹かれていく。洋子、美沙、そして兄の婚約者・果歩という不思議な関係の女性3人の気持ちの揺れを、丁寧にすくい取っている。

 

主人公の洋子を演じるのは笠松七海、美沙役は監督としても活躍する村田唯。キャストは、監督コンビや脚本の沼田真隆が、これまで共に仕事をしてきた人たちに、それぞれ当て書きをして演じてもらったという。

「例えば洋子は、兄の健治が嘘をつくとき必ず首を掻くとか、よく人の癖を観察しているんですが、それは『七海はよく人間観察をしている』と言う沼田の話から作っていったキャラクターなんです。脚本を書くうえで浮かんだ人に当て書きしていって、その人に出てもらった。脚本を書いているうちに脳内で芝居ができている(笑)」と芳賀監督。

 

脇役までキャラクターが立っているのはそういう成り立ちのためだろう。セリフやしぐさの自然さ、テンポなども絶妙で、なんということのない台詞や表情に観客が反応し、笑いが起こる。

 

上映会場の多目的ホールには、芳賀監督、洋子役の笠松、美沙役の村田、健治役のイワゴウサトシ、果歩役の猫目はち、健治の同僚役の広木健太、健治の元カノでバーのママ役の林田沙希絵、脚本の沼田と、鈴木祥監督を除く主要スタッフ、キャストが勢ぞろいした。

 

芳賀俊監督(兼 撮影)
「映画制作には困難が山ほどつきまといます。だからふつうは大変だったことを一つ上げるのは難しいですが、今回は(やっている最中はなにも)感じなかった。自分の持てる力を最大限発揮して、没頭していたからかも。クランクアップして、いま夢が覚めたみたいな感じです(と涙ぐむ)」

 

笠松七海(洋子役)
「大変と言えば全部大変でしたけど、この現場では“洋子”でいさせてもらう時間が長かったので、洋子として行動ました」

 

村田唯(美沙役)
「美沙は大事な役。美沙は、現場で七海ちゃん、監督、キャスト、スタッフ全員で作り上げていった役だと思っています」

 

イワゴウサトシ(健治役)
「クズ(健治役)です(笑)。女優さんたちのファンの方から、タコ殴り(形がなくなるくらいぼこぼこに殴られるの意)にされるんじゃないかと思うくらい。連休明けの平日の朝イチに、こんなにたくさんの方に観に来ていただき、大変感謝しています」

 

猫目はち(果歩役)
「観たらわかると思いますが、大変だったのはウェディングドレスです。めっちゃきつくて(笑)。締め上げたら二の腕が目立っちゃうし。あれを8時間くらい着たままという、貴重な体験をしました(笑)」

 

広木健太(同僚役)
「バーのシーンでは本物のワインを飲ませてもらったんですが、何テイクも重ねたため、本当に酔っぱらってしまい、ギリギリでOKが出てよかったです(笑)」

 

林田沙希絵(元カノ役)
「大変なことはない、幸せな現場でした。スタッフもがんばっていてかわいいなと思いました(笑)」

 

沼田真隆(脚本)
「脚本を書きましたが、現場では照明と特機も兼ねていたので、照明や特機の仕事をしつつ、台詞の直しもするという感じで大変でしたね」

 

スタッフは大学時代からの仲間や、卒業後に現場で知り合った仲間たち。気心の知れた仲間で作った作品らしく、ずらりと並んだキャストと監督・脚本の皆から和気あいあいとした現場の雰囲気が伝わってくる舞台挨拶だった。

Q&Aは、芳賀監督と笠松、村田両ヒロインの3人で行われた。

 

(左から)村田唯さん、笠松七海さん、芳賀俊監督

 

「愛を注いだ娘のような作品です。この作品は、沼田と話していて、『今まで知り合った俳優さんたちと一緒に、アベンジャーズみたいなオールスターの映画を作ろう』というところからはじまり、冒頭と結婚式のシーンを膨らませていく形で作りました。鈴木と2人で監督することになりましたが、ここからここまでは芳賀で、ここからは鈴木というやり方ではなく、面白い脚本に負けないよう、現場で議論を重ね、切磋琢磨しながら作りました」と芳賀監督。

 

一人が何役も仕事を分担して撮り上げた作品。芳賀監督自身も、撮影、照明、編集を兼ねた。「やりがいはありました。映画作りには狂気じみたところがありますが、その狂気を楽しむという感じ。生みの苦しみは苦痛ではありませんから」

 

「とはいえ、カメラを回しながら監督するのは、大変な経験だったのでは?」という質問に、芳賀監督は「ファインダーを覗くときにもう一方の眼は閉じちゃうものですが、それを開ければいいんです。両目で、片方はカメラのファインダー、もう片方は目の前の俳優の芝居を同時に見る。これってリドリー・スコットが言っていたことなんですけれど、なるほどと思いました。僕はカメラ出身なので思うんですが、カメラマンってその映画の最初の観客だと思うんですよ。最初に俳優の芝居を観る。そこで面白くなければ、お客さんが観たって面白くないと思うんです。今回は、僕、泣きながらカメラを回しました。カメラマンと監督は夫婦みたいなものと言われますが、今回は鈴木がいてくれて、2人で監督できてよかったなと思います」

 

「カメラマンとしてこだわったシーンは?」の問いに撮影も手掛けた芳賀監督は、「全カットこだわっていますが、カメラマン人生と能力を総動員したのは結婚式のシーンです。ここはサイレント映画のように、台詞はほとんどなしで、俳優の視線だけで表そうと考え、カット割を長い期間かけて考えました。120~130カットくらいあったでしょうか。時間と能力の限りを尽くしたシーンです」と話す。

 

おろかもの』の次回上映は、7月20日(土)17時30分から映像ホールで行われ、ゲストによる舞台挨拶とQ&Aも予定されている。