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【インタビュー】『コーンフレーク』磯部鉄平監督
――前作の初長編映画『ミは未来のミ』は昨年の本映画祭でSKIP シティアワードに輝きました。それに続いての作品になります。
隠していたわけではないんですけど、『コーンフレーク』は、『ミは未来のミ』より前に撮り終えていたんですよ。撮影していたのは2年ぐらい前の冬で。ほんとうは初長編映画になるはずだった(苦笑)。
編集を全然していなくて、めっちゃ寝かしてしまった。
――では、タイトルからどうしてもお笑いコンビ、ミルクボーイのネタを想起してしまうのですが、それは関係ない(笑)
ほんとうに知らなくて、完成したときに、みんなに伝えたら「あわせてきたな」みたいなこと言われて、「なんのことやろう?」と思ったら、そういうことで。
ミルクボーイさんがこのネタで大ブレイクしていたころ、出演している手島実優さんの特集上映で、1回だけ『コーンフレーク』が上映されたんですけど、そのときもめっちゃいじられました(苦笑)。
――磯部監督のこれまでの作品は、学生時代に関わることが多い印象があります。でも、今回は30代手前の同棲中の物語ですね。
ちょっと年代は上になったんですけど、また僕の実体験がベースにはなっています。30代手前の話で。映画で主人公の裕也は音楽の道をあきらめきれないことになってますけど、僕は映画を作るといいながら、同棲してなんか結婚があるのかないのか先延ばしにするだらだらした生活を送っていた。
そのころを描きたいなぁとなんとなくおぼろげに考えていたころ、今回の主演俳優である裕也役のGONちゃんや、彼と同棲をしている美保役の高田(怜子)さんと話したら、彼らがまさに僕がだらだらしてた(笑)ころに当たる、ちょうど30代手前で。高田さんとは「東京に出てきたのはいいけど、バイトばっかで俳優としてどうにもなっていない」みたいな話になった。GONさんも役者活動を本格的にするかどうかみたいな感じでバイト生活をしていて、二人ともなんとなくもやもやした時期を過ごしていた。ダメな人生じゃないけど、でもなにか確立したものや道筋も見えていないような。
それで、僕も周りもみんなうだつがあがらん。そういう人間たちの話をやるべきだみたいな気持ちになって、高田さんやGONさんの取り巻く現状や自分にとって少し前のどうにもならなかったころを重ね合わせながら、今回も、永井(和男)くんと話をして脚本を練っていきました。だから、GONさんと高田さんは自分の現状と重なるところがあって、役とはいえちょっと触れたくないところに触れて痛かったかもしれないですね(笑)。
――物語は、さきほど少し触れられたように、保険外交員として後輩の指導をするぐらいのキャリアになりバリバリ働く美保と、音楽の夢をまだ捨て切れず、先の見えない生活を送る裕也の30歳を手前にした同棲カップルが主人公です。
20代後半、30代手前ぐらいのころって、なにか決断を迫られるといいますか。たとえばなにか自分のやりたいことを追っているとしたら、その夢を追い続けるのか、断念して別の、いわゆるちゃんとした仕事につくのか二択が突きつけられる。結婚も同じ。恋人がいたり同棲していたりすると、そろそろ決断したほうがいいんじゃないかと。恋人がいなくても親からそろそろ結婚の話はないのかと迫られる。なにか区切りをつけないといけない空気が自分の周囲だけではなくて、日本の社会全体にもあるような気がするんですね。
で、なにかそこで決めかねていると、「グズグズしている」「ダメなやつだ」といったように周りにダメ出しをされてしまう。本人らはそれでもかまわないと思っていても。
それで、なんか決断を周囲から勝手に迫られてしまうこの年代の周囲からすると「ダメ」といわれてしまうような男女を魅力的に描く映画を作りたいと思ったんですよね。通常なら映画の主人公にはならないかもしれない。でも本人らは自分らなりに生きている人間に光を当てたかった。自己肯定といわれてしまえば、否定できないんですけどね(笑)
――同棲生活7年目の美保と裕也はある日、将来的なことなどのこれまで溜まっていた鬱憤から衝突。別々の夜を過ごしたことから、互いの関係を見つめ直していきます。二人の感情のやりとりもさることながら、彼らの暮らしぶりもリアルに描かれています。
内容としてはひとつのラブストーリーだと思うんですけど、よくあるタイプの恋愛ものとは違うといいますか。キラキラしておしゃれにとか、逆に大人で艶めかしいというものにもしたくなかった。彼らのふだんの暮らしをきちんと描くことで、二人の恋愛模様を描きたかった。
美保は外ではバリバリ働いて後進の指導にもあたってできた人間ですけど、整理が下手で家では片付けができない。一方、裕也は稼ぎがあるのかないのかわからん程度の仕事しかしないけど、家事はそれなりにできて美保を助けている。
傍からみると、美保はよくできた子なのに、なんであんなふらふらした裕也と付き合うの?となると思うんです。でも、なんか付き合っている者同士って、どこか自分の不得手なところを補っているところがある。そういう周囲からはわからない二人だけの関係性を描きたいと思いました。
そのことを際立たせるためにも、二人の生活はきちんと描かないとダメだなと思って。彼らの日常を大切にしたところはありますね。
たとえば、美保がパンツ姿で歩くところありますけど、高田さんに聞いたら「ふだん履くようなパンツはもっとダサダサですよ」とか言われて。はじめはもうちょっと色気のあるものにしようかと思ったんですけど、なんか変にエロティックになってしまうから、ダサいものにしてもらったんですよね。家での服装もテレビドラマのような部屋着はないということで、こっちもだらっとしたものにしたり。なんか二人の生活感を滲み出すことにこだわりました。
――磯部監督の作品は、愛すべきダメ人間がよく登場します。今回の美保と裕也もおそらく傍から見るとそうなるでしょう。ただ、磯部監督は、ダメ人間=ダメダメと切り捨ててない。「お前しっかりしろよ」「もっと向上心をもって生きろよ」といったような押し付けの鼓舞もしていない。かといって、「俺ってダメな人間なんです」と自虐的にも扱っていない。ダメなところを肯定するわけではないけど、人それぞれでもうちょっと長い目でその人物をみてもいいんじゃないかという視点を感じるのですが?
自分としてはダメ人間を常に描いているつもりはないんですよ(笑)。でも、たとえばSKIPシティの映画祭でも紹介文がくると必ず、「ダメ人間」と書かれている。そこで「あぁ、そうなんだ」となるんです。
みんながみんな聖人君子ではない。誰もがいいところもあればダメなところもある。自分としてはそれを素直に描いているだけ。
あと、人間誰しもミスをしてしまうことはある。そこで「ダメ」とレッテルを貼るのではなく、おおらかにみてその人を肯定したい気持ちはあります。セカンド・チャンスが許されない社会は嫌ですから。甘いといわれそうですが。
――その意識は、美保と裕也が最後に選択する道にも表れているような気がします。
二人の選択は、人によってはダメな選択に思えるかもしれない。でも、こういう形があってもいいんじゃないかなと思うんですよね。世間体などとの比較でよし悪しを判断しなくていいのではないかなと。
おそらくこうした同棲カップルのたどる道のパターンとして映画でこれまで描かれてきたのは、それぞれ別々の道を歩むか、結婚してハッピーエンドになるかのいずれか。
でも、ほんとうにこの二択なのかと思うんですよね。音楽でも映画でもいいんですけど、この年代になると、あきらめるかどうか迫られる。これもまじで二択なのかと思うんです。どっちでもないけど、いい感じに収まるところあるんじゃないかと思うんです。
だから、ここでの美保と裕也のような選択があってもいいんじゃないかなと。まあ、この後も揉め事は絶えないでしょうけど(笑)。
――主演の高田怜子さんとGONさんはどういった経緯で?
GONさんとは2回ぐらい短編でご一緒していて、以前から長編を一度やりましょうといっていました。
高田さんは『オーバーナイトウォーク』という短編で、ご一緒して。実は、今回の『コーンフレーク』のために、『オーバーナイトウォーク』を撮ったところはあります。高田さんがどんな人か知りたかったので。
ある意味、二人ありきではじまった作品です。二人の境遇も重なってましたから、身を削ってもらったところもある。
僕にとっては少し昔の話でしたけど、GONさんと高田さんにとってはどこか現実と地続きでリンクしていたと思うので、さっき言ったように痛みを感じて大変な現場だったかもしれません。
――物語におけるキーパーソンとして登場する日乃陽菜美と手島実優さんも確かな存在感を放ちます。
日乃さんは昔からの知り合いで、彼女がまだ学生だったころ、ちょっとお仕事したことがあったんですよ。でも、以降は全然連絡はとっていなかった。ただ、SNSはチェックしていて、頑張っているんだなと思っていたんです。
それで朱里と言う役がいい感じにあざとさのある女の子で。好きな男性には積極的にアプローチしますけど、そうでない相手は軽くあしらう。ちょっと魔性の女っぽいところもある女性なんですけど、これ、日乃さんだったらいい具合に演じてくれるんじゃないかなと思って、声かけたんですよね。
当時、タレント活動が中心で、演技に飢えていたところもあって、はまってくれましたね。
――手島さんは?
美保の後輩のアミ役が、オーディションもしたんですけど、全然決まらなくて。このアミは先輩が憎めない甘え上手で女性受けも悪くないが、男性にもちやほやされるタイプ。これをなんか嫌味なく演じられる人がなかなかみつからなかったんですよね。
それで、GONちゃんに相談したんです。それで手島さんどうですかと。
手島さんはほかの作品をみて知っていたので、声がめっちゃいいと思っていて。アミにもマッチするなと思ってお願いしました。
――今回で、3作連続でSKIPシティ国際Dシネマ映画祭の入選になります。
めちゃくちゃうれしいです。
SKIPシティは助監督を務めた『見栄を張る』で初参加して、そこでいまにつながる脚本家の永井君と知り合い、そのあともいろいろと出会いがありました。
ほんとうに映画祭を経るごとに自分自身がステップアップできているといいますか。僕を育ててくれた映画祭といっていいです。おかげさまで僕の作品を知ってくれて、オーディションを受けてくれる人もほんとうに増えました(笑)。
今回はオンラインでの開催で例年と形式は変わりますけど、いろいろな人にみていただけることを期待しています。
文・写真=水上賢治