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【デイリーニュース】vol.11 『命の満ち欠け』小関翔太監督、岸建太朗監督、上原剛史、加藤紗希 Q&A

映画は何のためにあるか? 存在理由を全員で問うた『命の満ち欠け

左から小関翔太監督、岸建太朗監督、上原剛史、加藤紗希『命の満ち欠け

 

国内コンペティション長編部門の『命の満ち欠け』は、薬物依存という現状から抜け出そうとあがく弟ユウサクと、更生施設から引き取った彼を題材に映画を作ろうともがく兄ショウタの人間ドラマ。Q&Aには、主演も努めた小関翔太監督、岸建太朗監督、上原剛史、加藤紗希が登壇した。

 

初監督作品を観客と一緒に鑑賞し、高揚感を味わったという小関翔太監督は映画祭パンフレットに、「私はこの映画の脚本を、若くして自ら命を絶った大切な友人に捧げるために書きました。そして、本作で主演を兼任した理由は、友人が抱えていたであろう絶望や苦悩を実際に経験しようとすることで、頭で理解すること以上の“何か”に触れたかったのです」と寄せている。

 

壇上では「映画というものが何のために存在しているのかは人それぞれ違うと思いますが、僕にとっては、友人たちが味わった悲しみ、苦しさ、怒りを浄化できるものが映画でした。そして何かがお客さんに届けば、それはポジティブなエネルギーに変わるかもしれない。僕が友人と向き合うには、この映画を作ることが必要だったんです」と真剣な眼差しで語った。

 

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010で上映された『未来の記録』(09)の監督であり、『海辺の彼女たち』(20)ほかの撮影監督でもある岸建太朗監督は、運命に導かれるようにこのプロジェクトに参加。約1年半前、本作で自立支援施設の運営者マツナガを演じた伊藤慶徳から紹介され、小関監督と会った。

 

「行くと、『この映画を撮れなかったら俺はもう死にます』みたいな顔の人(小関)がいるわけです、目の前に。シナリオも自らの独白みたいな感じで、しかも彼は友人の味わった痛みや苦しみを自らが演じることで乗り越えようとしていた。これは覚悟してやらなければいけないなと思いました」。

 

本作には、薬物依存患者を食いものにする更生施設の運営者マツナガや、兄弟の幼なじみで親身になるお弁当屋のミサト(加藤紗希)のようなリアルな人物と、ユウサクが足を踏み入れる異世界の支配者フジシマ(梅田誠弘)のようなファンタスティックな人物が共存する。なぜこのような構成にしたかと問われた小関監督はこう話す。

 

「手がかりになるのは、映画の中でも登場する“消えない電話番号”です。薬物依存症の家族にはリアルに感じられる話なんですが、彼らの頭の中には、精神病院に行こうが、刑務所に行こうが消えない電話番号があるんです。プッシャー(麻薬の売人)をリアルに登場させたところでたぶん違和感が出てしまう。それより他者がどんなに問いただしても知ることのできない“電話番号”のつながる先を、フジシマという不思議で桁外れな存在として登場させるのがいいのではないかと思いました」。

 

本作で描きたいと思ったテーマの一つに「暴力の連鎖」がある。小関監督にはそれを断ち切りたいという“願い”があった。そんな気持ちを込めたのが、最後、兄弟やミサトがフジヤマをもてなすというファンタスティックな食事のシーンだ。

 

小関監督は、「暴力の連鎖は負の連鎖。最後にフジシマを家に呼んで、一緒に食事をするのはそんな負の連鎖を断ち切ってみせたかったからです。いろいろなラストを模索しましたが、暴力によって解決し、再び負の連鎖の道を歩み始めるのではなく、フジシマ、ショウタ、ミサトと手をつなぐ方向に向かいたかったのです」。

 

岸監督はこの場面をもう少し広い解釈で捉えたという。「いがみ合う某国と某国の人間もまた、立場を変えれば一緒に食事をすることがある。食事をする行為に込められた懐の深さが表現できればいいなと思いました」。

 

そんな兄弟の食事を常に気に掛けるミサトは、たぶんそれを象徴する存在なのだろう。脚本は、岸監督が入って独白形式から映画的文法を用いた形へと置き換えられ、撮影に入った後も変わっていったという。

 

撮影直前にミサトを演じることが決まったという加藤は、「脚本はありましたが、毎回、このシーンはこれでいいのだろうかと、俳優、スタッフ全員で立ち止まって考えました。脚本に書いてある台詞を言うのではなく、実際に現場で起きていることを感じながら生きたというか。ミサトはいつもユウサクを気にかけていますが、最初に小関さん、上原さんに会ったとき、なぜか“救わなければ”という気持ちにされられました。なのでミサトの行動には違和感はありませんでしたが、その行動は彼女が完璧な人間だからではなく、他者を救うことで満たされる人なのかも。そんなふうに感じました」。

 

兄弟を演じた上原と小関は、2カ月前から撮影を行った家に一緒に住んで準備をした。その間、いろいろな意味で2人は疲弊し、そのまま撮影に臨んだという。

 

岸監督は、「そんなギリギリの状態の2人を見た加藤さんはいい意味で『これはなんとかしなければ』と思ってくれたのではないか」と語る。「加藤さんが出してくれたアイデアは、どれも僕らだけでは見つけられなかったもの。ミサトという人物の根幹は加藤さんが作ったものだと思います」と。

 

この映画とともに、命の削り合いのような数カ月を過ごした上原は、「小関さんからこの映画に誘ってもらったときは、正直ここまで身を削るものになるとは思っていませんでした。でも岸さんと出会った頃から覚悟を決め、缶詰め状態で作業をし、働かない頭を動かしながら、苦しみながらスタートしました」と振り返る。

 

「たまに家に行くと2人がげっそりしていた」と証言する岸監督。クランクイン直前でも脚本の再構築を続けていた監督たちは、「無茶苦茶なのに、何かを生み出さなければならない。そんな中に上原を巻き込んでいった感じでした」と告白。小関監督は「でも僕はそんな上原の顔を見るのが好きでした」と結んだ。

 

命の満ち欠け』の次回上映は7月23日(土)11時から映像ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月21日(木)10時から7月27日(水)23時まで。
 


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