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【デイリーニュース】Vol.06『聖なる電灯』タト・コテティシュヴィリ監督 Q&A
トビリシの個性的な人々と建築や町の雰囲気を見せたかった
『聖なる電灯』タト・コテティシュヴィリ監督
映画祭3日目の7月20日(日)、13時から映像ホールで海外招待作品の『聖なる電灯』の上映とタト・コテティシュヴィリ監督を招いてのQ&Aセッションが行われた。『聖なる電灯』は、ロカルノ国際映画祭新鋭監督コンペティション部門金豹賞ほか数々の国際映画祭で受賞を果たした作品で、今回の上映がジャパンプレミアとなる。
ジョージアの首都トビリシで暮らす青年ゴンガ。父を亡くしたばかりの彼は、従兄のバルトと共にスクラップ置き場で見つけたたくさんの十字架にLED電飾を施して「ネオンクロス」として売る商売を始める。ふたりはネオンクロスを抱えて様々な家を訪れるが、売れ行きは芳しくない。やがて借金取りに追われて売り上げを使い込んだバルトと決裂したゴンガは、親しくなったコーヒー売りのロマの娘と一緒に訪問販売を続けるのだが……。
今回が初来日だというコテティシュヴィリ監督は、「多くの方に見ていただけて嬉しいです。国によって作品の受け取り方も違うと思うので、皆さんにどのように受け取っていただいたかがとても気になります。エンドロールが始まるとすぐ観客が席を立ってしまう国もありますが、日本の皆さんは最後の最後まで見てくださる。(エンドロールの最後にもうワンシーンある)この作品にはパーフェクトな反応です」と挨拶。
Q&Aでは最初に、様々な人が入れ代わり立ち代わり登場する作品の成り立ちについて語った。
「トビリシの個性的な人々を紹介したいという思いがまずあり、それと同時にトビリシの建築や町の雰囲気も見せるというストーリー構成を考えました。私は写真家でもあるので、映画に出てくる場所の多くはすでによく知っていました。ジョージアには高速道路や山などに大きなネオンクロスがたくさんあります。ネオンクロスを売るふたりを追いかけることで、町やそこに住む人々を見せていくという話を膨らませました」
監督の話す通り、トビリシの町の様子や登場人物たちが、ドキュメンタリーのようにリアルに感じられる。どこまでプロの俳優を起用しているのだろうか。
「ゼロです。プロの俳優は一人もいません。住んでいるアパートをそのまま撮影に使っている人もいます。チェブラーシカを売っている年配の女性たちが出てきますが、あのおもちゃは全部彼女たちものです。ドラムを叩いているお爺さんも、服装から部屋まですべていつものままです。バルト役は実際にトランスジェンダー男性ですし、コンガ役はプロのクラリネット奏者で、それぞれの実生活を逆にストーリーに反映させています。ロマの女性も、実際にはコーヒー売りではありませんが、彼女が話す姉弟の話は実際の出来事で、かなりドキュメンタリーに近くなっています。
人を探すのは、映画作りで最も苦労した点でした。特にメインキャラクター2人とロマの娘は、難しい役柄であるというだけでなく映画全体を引っ張るエネルギーが必要です。ストーリーありきでキャスティングしたのか、人ありきかというと、両方ですね。出会いがあって映画に盛り込んだ人もいればストーリーに合わせて選んだ人もいます。その人に合わせてストーリーを変更することも柔軟に行いました」
引きのショットとカメラが動かないロングテイクが多いことと、アマチュアの俳優を起用していることは関係しているのかという質問にはこう答える。
「この映画のスタイルは、ノンプロの俳優を起用する上で実利的な形です。ノンプロの俳優が即興で演じているので、撮りたいものを撮るためにはドキュメンタリーのように待つ時間が必要だと考えました。動きが予測できないので、カメラもワイドでフィックスしています。ワイドショットは美的な意味でも私にはしっくりきます。ショットが長ければ、最初はキャラクターだけを見ている観客も、プロダクションデザインや背景などほかのディテールに目を向けることができるのです。照明の使用も最低限にしました。照明のセッティングには時間がかかるので、俳優たちの集中が切れてしまう。照明より俳優を優先させたという実利的な面もありますが、自然光のほうが美しく撮れるという経験を何度もしているので、最初から自然光が美しい場所で撮影しているということもあります」
俳優たちにどのような演技指導を行ったのかも気になるところ。
「私の最初の短編作品はほぼ台詞がありませんでした。この作品は台詞が多いので自然に演じてもらえるか不安でしたが、うまくいったと思います。作品にぴったりな人を探すのに長い時間をかけましたし、彼らと長い時間を過ごし、挑戦してみることや即興で演じることをためらわないよう心地良い雰囲気を作ることを心がけました。どんなことにもオープンでいて、信頼と友情を築けたこと、クルーの規模が小さく、皆がストレスなく過ごせたことも大きかったと思います」
ジョージア出身のコテティシュヴィリ監督は、同じジョージア出身で翌7月21日に短編作品『テモ・レ』の上映とQ&Aが行われるアンカ・グジャビゼ監督と20年来の友人だそう。
「今日の作品でジョージアに興味を持った方は、ぜひ明日も見に来てください!」
※海外招待部門『融合する身体』『テモ・レ』の上映は7月21日(月)14:00から映像ホールにて。
取材・構成:金田裕美子 撮影:松村薫