ニュース
【デイリーニュース】Vol.11 『テモ・レ』アンカ・グジャビゼ監督と
クーン・デ・ローイ(IFFRプログラマー)「映画と国際映画祭の意義」 Q&A
映画と国際映画祭の意義
左:クーン・デ・ローイ(コンペティション審査員/ロッテルダム国際映画祭プログラマー) 右:『テモ・レ』アンカ・グジャビゼ監督
海外招待部門の最後のプログラムは、短編『融合する身体』と『テモ・レ』の2作品。どちらもロッテルダム国際映画祭2025タイガー・ショート・コンペティション部門で最高賞であるタイガー・ショート・アワードを受賞した作品だ。
アドリアン・パーチ監督の『融合する身体』は、イタリア・ナポリのアルミニウム加工会社の創立100周年記念として制作された作品。工場の内部にカメラが入り、アルミニウムが加工されていく様子と、工場で働く人々の姿をとらえる。
アンカ・グジャビゼ監督の『テモ・レ』は、バイク便のドライバーとして生計を立てている売れない俳優テモが、首都トビリシの町をめぐりながら、様々な出来事に出会うさまをモノクロ写真の連続で描く幻想的な作品。
上映後には『テモ・レ』のアンカ・グジャビゼ監督と、ロッテルダム国際映画祭プログラマーであり本映画祭コンペティション審査員でもあるクーン・デ・ローイ氏が登壇し、「作品と国際映画祭の意義」について語った。
グジャビゼ監督はまず、「映画祭にお招きいただいて、人生で成功の時を過ごしています。私は日本が大好きで、私の作品や創造性、考え方には日本の文化からいつも大きなインスピレーションを受けています」と挨拶した。
まずは、『テモ・レ』を作ることになったきっかけについて、グジャビゼ監督にうかがう。
「きっかけは2つあります。私は写真家ですが、数年前から映画を作りたいという気持ちが高まってきたこと。もうひとつはテモ・レフビアシュビリの『Courier’s Tales』という本を読んだこと。3日間くらい頭の中から離れず、これを脚本化して映画にしたいと思いました」
映画なのに、動画ではなく、スチール写真を構成することで映像化したのはなぜか?
「映画製作には不慣れだったので資金調達ができず、予算ゼロなのにクオリティの高いイメージは欲しかった。いいスティルカメラは持っていましたが、映画用カメラを借りるお金はなかったので、写真を使うことにしました。クリス・マルケルの『ラ・ジュテ』やアニエス・ヴァルダの作品などから、写真から映画を作ることは可能だと分かっていましたので」
ここからは、上映した『テモ・レ』と『融合する身体』を上映したロッテルダム国際映画祭のクーン・デ・ローイも入り、作品と国際映画祭の意義についての話へと展開。一問一答でお送りする。
――今回上映した『テモ・レ』と『融合する身体』はどちらもロッテルダム国際映画祭の短編部門でタイガー・ショート・アワードを受賞した作品です。ロッテルダム映画祭は、新しい才能を見つけることを重要視した映画祭。去年私どもの国内コンペティション短編部門にありました渡辺咲樹監督のアニメーション作品『チューリップちゃん』という作品を今年のロッテルダム映画祭で上映していただいた縁もあって、今回この2作品とクーン・デ・ローイさんをお招きしました。クーンさん、自己紹介と、ロッテルダム映画祭について少しお話いただけますか。
「映画祭に参加させていただいて本当に嬉しく思います。私の映画への興味は日本映画と共に始まっています。10代の頃、北野武、塚本晋也、三池崇史監督ほかたくさんの作品と出会って日本文化に魅了され、日本映画を見にロッテルダム国際映画祭に通ううちに台湾やほかのヨーロッパ映画を見るようになりました。大学では日本とアジア、さらにメディアを学び、ロッテルダム映画祭でボランティアとインターンを経て主に東アジア、東南アジアの短編作品を担当するようになり、今では長編作品のプログラミングも行っています。すべての始まりは日本映画なんです」
――ロッテルダム国際映画祭は作品上映以外にも、展示や企画マーケット、映画作家をサポートする基金なども運営しています。映画祭が担っている役割について、クーンさんはどのようにお考えですか?
「毎年、自分たちにできてほかの映画祭にできないことは何かを再考し続けています。カンヌやベルリン、ヴェネチアと違うのは、ロッテルダムが常に新しいアーティスト、バックグラウンドの違うアーティストを探していること。写真家でもあるアンカ・グジャビゼがいい例ですが、異なるバックグラウンドを持つ映画作家にプラットフォームを提供したい。また、彼らを映画祭に招いて様々な国の映画作家たち、プロデューサー、映画祭プログラマーと出会う機会を作りたいと思っています。
ロッテルダム映画祭の創設者Hubert Bals は1970年代にヨーロッパでは見る機会の少なかったアフリカやアジア、南米の映画を紹介することに努めました。彼が亡くなった後にHubert Bals Fundという基金が創設され、それらの国のインフラ作りや映画製作のサポートをしています。支援対象はその国の政治的、経済的状況によって変わります。例えば昨日上映された『聖なる電灯』もこの基金を使って製作された作品です。今では数多くの映画祭が基金を設立していますが、最初に始めたのはロッテルダム国際映画祭です。
――グジャビゼ監督は、『テモ・レ』を映画祭に応募する際に、なぜこのロッテルダム映画祭を選んだのでしょう?
「とても民主的で素晴らしい映画祭だからです。新人の映画作家に作品を紹介する機会を与えてくれますし、Aクラスの映画祭だということもあります。ロッテルダムで受賞したことは、私にとってとても重要な意味を持っています。こうして世界の映画祭を回ることができましたし、ほかの映画作家や共同制作の可能性のある人に出会う機会にもなりました。私の次の映画は日本に関係しているので、日本の共同制作者や脚本家を探しているところなんです。今回は、私の映画を見てもらって将来的に一緒に仕事をする人を見つけるいいチャンスだと思っています」
――今日上映した『融合する身体』と『テモ・レ』はどちらもとてもチャレンジングな作品だと思いますが、ロッテルダム国際映画祭で上映する作品はどのように選考しているのでしょうか。
「固定された選考基準というものはあありません。毎年違いますし、7人の選考委員がそれぞれ担当地域を持っていて、そこから選んだものを全員で議論するという形です。ドキュメンタリーやアニメーション、実験映画、ナラティブといった様々なジャンルのものを選び、地域や言語、マイノリティといった多様性も大事にしています。大胆で挑戦的な作品も支援したいと思っています。観客だけでなく、毎年千本近く映画を見ている我々にとってすら新鮮で、考えさせられる作品を歓迎しています」
――現在のロッテルダム国際映画祭において、日本映画の存在はどのようなものですか?
「オランダでは90年代からテレビの深夜番組でよく日本のホラー映画が放送されていましたし、『NARUTO-ナルト』や『ドラゴンボールZ』、スタジオジブリなどのアニメーションも人気で、日本作品の人気はここ30~40年で定着したと思います。ロッテルダム国際映画祭で数年前に湯浅政明監督のレトロスペクティブを開催した時はチケットがすぐに完売しました。今年は日本から11作品が出品されましたが、このセレクションにも多様性を持たせるようにしています。『チューリップちゃん』は明るく楽しく、伝統的な作品である一方、新鮮でもあります。ユニークな新しい声だと感じてロッテルダムでも紹介しましたし、これが彼女のキャリアのサポートになればいいなと思っています」
デ・ローイ氏はこの日以降も、新たな才能に出会うことを楽しみに本映画祭に通うという。グジャビゼ監督は、「先述のとおり、次回作の脚本家と製作パートナーを探しています。関心のある方はぜひ声をかけてください。作品の感想もうかがいたいので、恥ずかしがらず話しかけてくださいね!」と話した。
取材・構成:金田裕美子 撮影:松村薫