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【デイリーニュース】Vol.24 関連企画「AI映画の現在」トークイベント
常に新しい映像表現を探求! AI映画に必要な力とは?
「AI映画の現在」(前列左から)『My spaceship』眞田康平監督、『Anyway Incorrect』小林亮太監督、『HAPPY BIRTHDAY』尾関彩羽監督、『COCKY』士友哉監督
(後列左から)依田純季プロデュサー、⽯丸将太(PYRAMID AI/AI⽣成 スーパーバイザー)、『ラストドリーム』『COCKY』串田壮史監督、林宏介(PYRAMID AI/AI⽣成 スーパーバイザー)
映像生成、音楽制作、脚本開発など、映画制作の様々な領域に急速に浸透しているAI技術を特集する関連企画「AI映画の現在」が、25日(金)、映像ホールで開催された。第29回プチョン国際ファンタスティック映画祭(7月3日〜13日)で「ベストAIフィルム」を受賞した『ラストドリーム』をはじめとする生成AIによる5作品が一挙に上映された。
本企画は、SKIPシティのインキュベートオフィス入居クリエイターと、CMやミュージックビデオの生成AI分野で最前線を走る制作会社「ピラミッドAI」の協力により実現した。ジャパンプレミアとして上映された『ラストドリーム』を手がけたのは、『写真の女』(2020)で国内コンペティションのSKIPシティアワードを受賞した串田壮史監督。監督・脚本・編集に加え、AI生成スーパーバイザーとしてピラミッドAIの林宏介氏と石丸将太氏が参加している。
そのほか、『HAPPY BIRTHDAY』(尾関彩羽監督)、『COCKY』(士友哉&串田壮史監督)、『Anyway Incorrect』(小林亮太監督)、『My spaceship』(眞田康平監督)がワールドプレミアとして上映された。5作品はいずれも同じAIソフトウェアをベースに制作されているが、温かみのあるピクサー風、ブラックコメディ、先鋭的なSFと作風の幅広さに、観客からは驚きと関心の声が上がった。
上映後には、串田監督、林氏、石丸氏の3名が登壇し、AI映像制作の実情と今後の展望についてクロストークを行った。
(左から)林宏介、⽯丸将太、串田壮史監督
石丸氏は、ここ数年のAI技術の進化について「2023年頃に見られた『ウィル・スミスがパスタを食べる』AI映像とはもはや別物。2025年の現在では、撮影と見間違うレベルの映像を、個人規模でも制作できるようになっている」と語り、その可能性に言及した。
串田監督は、制作現場で使用したソフト名やワークフローを具体的に紹介しながら、「かつては個人制作が主だったが、最近ではプロンプト操作を担う“プロンプター”と監督の分業によるチーム体制が主流になってきている」と説明。プロンプトの設計やバグ修正など、専門スキルを持つ人材の重要性が増している現状も明かした。
『ラストドリーム』では、SKIPシティのスタッフによる3カ月に及ぶバグ処理作業が行われたが、使用したAIソフトの費用については「新車の原付バイクより安く、都内の1カ月分の家賃ほど」と話し、生成AI制作の現実的コストの低さにも触れた。
ただし、生成AIには技術的制限も多い。ストーリーをもとに静止画を作成し、それを動画に変換する手法が主流だが、現行のソフトウェアでは暴力や性的表現に対して自動的に規制がかかるため、制作者が思い描くすべての表現をそのまま具現化することは難しいという。創作を実現するためには、プロンプトの工夫と高度なノウハウが必要になると語られた。
串田監督は「生成AIの映像をワンカットだけ見ても、それをビギナーが作ったのか、ジェームズ・キャメロンが作ったのかは見分けがつかない。だからこそ、何を伝えたいのかがますます重要になる」と述べた。
トーク終盤では、AI映像にまつわる倫理的・法的な問題も浮かび上がった。著作権の所在、プロンプトに基づく生成物の管理、亡くなった人物の肖像利用など、まだ明確なガイドラインが整備されていない領域が多く、課題であることが確認された。
最後に串田監督は「プチョン映画祭のキャッチコピー『今日のAIは一番古い』という言葉が非常に印象的だった。今、面白いと感じた映像も、明日にはすでに古くなってしまう。そうした変化の只中にいるからこそ、私たちは常に新しい映像表現を探し続けたい」と語った。
AIは誰もが扱える道具となった今、映画としての質を保ち、観客に届く表現を成立させるには、技術の先にある“物語る力”が必要とされている。今回の企画は、AIによる映像制作の可能性と共に、創造の主体である「人間」の役割が改めて問われた時間となった。
取材・構成・撮影:平辻哲也