SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024

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【インタビュー】『地球星人(エイリアン)は空想する』松本佳樹監督



――プロフィールの方に「子どもの頃から平成ライダーに影響を受け、高校の文化祭でヒーローショー&映像制作をしたことがきっかけで気づけば映画の沼に」と書かれていました。はじめにそこから少しお話をお聞かせいただけるでしょうか?


高校生ぐらいまでだったんですけど、仮面ライダーが大好きでした。それで絵やデザインに興味があって、芸術系のコースのある高校に進学していたんですけど、文化祭で何か出し物をすることになったんです。


そのとき、仮面ライダーがやはり自分は好きでしたから、特撮ヒーローショーと、関連した映像の制作をすることになったんです。これがめちゃくちゃ楽しくて、「映像って面白い!」と映像制作に目覚めた瞬間でした。それまでは完全に見る側の人間だったんですけど、このときから(映像を)作る側に興味を抱くようになりました。


――その経験があって、大学で本格的に映像を学ぼうと思ったと?


そうですね。もう大学は映像系のコースに進みたいと思いました。ただ、映画を作りたいというよりも、あくまでヒーロー特撮を作ってみたい気持ちの方が強かったです。


――ただ進まれたのは、神戸芸術工科大学映像表現学科映画コースですよね。なぜ映画コースの専攻にしたんですか?


関西や東京など、映像系の大学を探したんですけど、たとえばビジュアルアートのように映像表現について学ぶようなところが多い。僕はなにせヒーローものですから、物語がきちんとある、つまりシナリオがあっての映像を作りたかった。そう考えて選択すると、映画を学べるところということになりました。


そこで神戸芸術工科大学映像表現学科映画コースに進み、石井岳龍監督の指導のもとで映画作りを学ぶことになりました。神戸芸術工科大学を選んだ理由はもう一つあって。実は特殊造形サークルがあって、それもいいなと思いました。ただ、大学で映画を作り始めたら、映画にかかりっきりになってしまって、特殊造形サークルにはほとんど参加できないで大学生活が終わってしまったんですけどね。


ちょっと成り行きで映画コースに進んだところはあるのですが、結果としては映像から、今度は映画に目覚めることになりました。


――石井岳龍監督のもとで学んだことは?


多くのことを学びました。でも、正直なことを言うと、はじめは石井教授のおっしゃることがレベルが高すぎてちんぷんかんぷんでした(苦笑)。そもそも僕は映画ではなく、映像作りを学びたくて進んでいるので、映画に詳しくないどころか映画のことをよくわかっていない。だから、石井教授が映画についていろいろと語ってくれるんですけど、ほとんど口がポカン状態でした(笑)。


で、石井教授は実践重視で、カリキュラムとしてはとにかく作って研究を重ねなさいみたいな感じで。2分の映像作品作りから始まって、3分、5分、10分とちょっとずつ長い作品を自分の手で作っていって、みんなで見てさらにブラッシュアップしていく。そんな感じで自主性に任せられた作品作りを主体にしながら映画を学んでいきました。


そうやって実践していくことで、石井監督がはじめおっしゃっていた教えのことがようやくわかっていく感じでした。いずれにしてもここで学んだことが、僕の映画作りの礎になっています。


――大学卒業後は、就職をされています。


はい。大学卒業後は、上京するか踏ん切りがつかなくて、とりあえず奈良の実家に戻って、ケーブルテレビの会社に就職しました。


週に1度だけニュース番組があったのですが、そのニュースの取材といいますか。たとえば、地域で行われるイベントを自分でカメラをかついで実際に現地にいって撮影して、関係者や観客の方にインタビュー取材をして、社に戻ったら、その映像を1分ぐらいにまとめる、みたいな感じでディレクター兼記者をやっていました。


イベントやお祭りはその場限りで終わってしまうものなので、限りある時間の中でできる限りのことをして撮らなくてはならない。この臨機応変さや時間制限がある中で集中するところとかは、今回の作品にも生きたかなと思っています。


――そのあと、上京することになる?


ケーブルテレビの仕事をしながらも、映画を作りたい気持ちはずっと持ち続けていました。それから、大学卒業後、多くの同期が東京へ行ったので、自分もどこかで上京したいと思っていました。で、2022年に奈良から上京して映像会社で編集の仕事を始めました。


それから仲間と共に映像制作団体「世田谷センスマンズ」を発足させて、創作活動を始めたという流れです。


――「世田谷センスマンズ」はどういったユニットなのですか?


団体といっても3人なんですけど(笑)、全員監督をやりたい意欲がある。ひとりは大学の同期の北林という男で俳優をやりながら、もうひとりは彼の奥さんで美術の仕事をしながら、それぞれ監督業もといった感じです。いまのところ個人個人で動いているのですが、ゆくゆくは3人で一緒になにかして「世田谷センスマンズ」として作品を発表できればなと考えています。

©世田谷センスマンズ


――では、ここからは今回の映画『地球星人(エイリアン)は空想する』の話を。「石川県の俳優で石川県で映画を作る」というコンセプトから始まったそうですが?


それこそ「世田谷センスマンズ」の北林の奥さんが石川県出身で。北林と奥さんが石川の実家に帰省したとき、今回、主演を務めていただいた石川を拠点に活動する俳優の田中祐吉さんから監督を探していると相談を受けた。映画を作りたいのだけれど、監督が見つけられないでいたみたいなんです。


ただ、そのとき、北林はほかの予定がすでに入っていて、自分はできない。それで僕に「やってみないか」と話を振ってくれたんです。振られた僕としてはこんなありがたい話はないので、「ぜひ」ということで映画作りが始まりました。


当初は助成金の関係や日程などを鑑みると短編を想定していたんです。僕もそのつもりだったんですけど、石川県を調べていくうちに今回の舞台になる「UFOのまち」羽咋市に出会ってしまった。羽咋市の存在を知ってから、自分でもびっくりするぐらいいろいろなアイデアが湧いてくる。これはとても短編で収めきることはできない。ということで、最後は助成金とか関係なく作ろうとなって、気づけばいきなり長編を撮ることになっていました。


――それぐらい羽咋市からは刺激を受けた?


そうですね。僕は石川県のことをまったく知らなかった。今回のお話をいただくまで行ったこともなかった。なので、北林や彼の奥さんや石川の俳優さんから、どんなところがあるのかいろいろと聞いて回ったんです。その中で、ひときわ異彩を放っていたのが羽咋市でした。


まず「UFOの町」と名乗っているのが面白い。それだけでもちょっと興味がわいて行ってみたくなるじゃないですか。


あと、僕が務めていたケーブルテレビが、むちゃくちゃホワイト企業だったんです。それこそ常に定時で仕事が終わって、給料も悪くなくて務めている間、なんの不満もなかった。こんなに恵まれているのに、どうなるかわからない、ブラック企業がいっぱいありそうな(苦笑)東京にわざわざ行くのって、周りからみると変に見えるのかなと思うことがあった。周りからみると恵まれて見える。でも、自分としてはなにか満たされていない気持ちがある。そのとき、考えたんです。「マジョリティとマイノリティの違いってなんだろう?そもそもマジョリティの人とマイノリティの人に違いはあるのか?普通ってどういうことなんだろう」と。


変かもしれないですけど、なんか考えてしまって。そんなときに羽咋市を知って、宇宙人とかUFOとかの情報が入ってきたら、僕は地球にいるから地球人だけど、その外にいったら宇宙人になる。また宇宙人からみたら宇宙人になる。でも、よくよく考えたら全員宇宙人じゃんみたいなことに考えが巡っていった。


そういうことが結びついて、今の物語の骨格のようなものができていきました。ですから、羽咋市にはかなりインスパイアされました。


ーー作品は、雑誌記者の宇藤が、「UFO のまち」石川県羽咋市で起きた「大学生エイリアンアブダクション事件」の取材で現地へ。人一倍正義感が強く、社会の悪や事件の真相に鋭く迫ろうとする彼は、この胡散臭い事件の嘘を暴こうとする。ところがUFO遭遇情報や宇宙人にさらわれたと主張する人物を取材するうちに、不可解な事件の迷宮に迷い込んでいってしまう。謎が謎を呼ぶSFミステリー的な物語が展開していきます。


いまはわからないことがあったら、ググってすぐに答えが出てくる時代。なんでもすぐに答えがみつかる、ちょっと調べて出てきたことが正解みたいな状況になっている気がしました。もしかしたら、その裏に別の真実があったり、きちんと調べたら正解は別にもあるかもしれないにも関わらず。なんでも明確な答えが求められて、わからないことが許されない、我慢ならない。わからないことを楽しむことができない状況になっている感覚がありました。


なので、まずわからないからこそ面白いと思えるストーリーを目指しました。わからないから、それぞれに想像して、時に空想もしながら楽しむ、そのようなストーリーになればなと思いました。


それは映像でも表現できないかなと思って。まず、撮り方がちょっと特殊でドラマっぽくもありながらドキュメンタリーっぽくもあるのですが、それはフィクションとノンフィクションの狭間をいくような映像で、見てくださった人がこれは現実かそれともフィクションなのか揺れ動きながら見てもらえればと考えてのこと。それから、いろいろな人の視点を入れ込むことで、最初はおぼろげでぼやけていた物語がまったく違った事実や嘘が判明して、最後は全体像が見えてくる。そういう構成を目指しました。わからないことが楽しめるように感じていただけたらうれしいです。


――謎めいたSFミステリーである一方で、社会的なメッセージも多分に含んだ内容になっていると思うのですが、その点で考えたことはあったのでしょうか?


いや、社会的メッセージというほどたいそうなことではないんですけど……。ただ、常に正しいとされていることが必ずしも正しくなかったりするのではないだろうか、一度「悪」とされたことは永遠に「悪」であり続けるのか、自分の中の常識や正義は果たして正しいのか、といったことを描くことで考えてみたい気持ちはありました。


あと、集団のもつ恐怖みたいなことは考えていて。たとえばマスコミにしても、宗教の信者にしても、一人ひとりは善良なのだけれど、組織や集団になったとき暴走してしまうことがある。この大きな塊になったときの恐怖みたいなものは描きたかったです。


――それから作品は10のパートに分けられています。こうした理由は?


はじめに話したように、特撮ヒーロードラマが大好きだったので、次にどうなるんだろうという期待をもたせた終わり方でつなげていく形式にしたかったのがひとつ。それから、少し入り組んだストーリーになっているので、パートが終わるたびにいったん頭の中を整理して次へ向かってほしかった。なので、各パートの間に少し通常よりも長めのブランクを入れています。


――では、キャストについてもお聞きしたいのですが、宇藤を演じたのは先ほども出てきた石川県を拠点に活躍されている田中祐吉さん。主演の彼とはどういった話し合いをしたのでしょうか?


宇藤は、完全にあてがきでした。田中さんのビジュアルのイメージと、石川でお話しする機会があったので、そのことを基に宇藤は書き上げていきました。宇藤に関しては、田中さんにかなり助けていただいて。田中さんがいろいろと創意工夫を加えてくれたことで人物として深みが出たと思います。


田中さんには脚本について、言い方や言い回しなどは自由に変えてくださいと伝えていました。でも、もうそういうことじゃなくて、クランクインした時点で、田中さんは完全に宇藤のことを僕よりも深く理解していた。だから、的確な提案をいろいろとしてくださいました。


たとえば、途中で宇藤が知り合いの立岡という記者に己の正義について嫌味っぽくたしなめれるシーンがあります。その言葉に宇藤は、もともとの僕の脚本では、「誰が正しさを決めるんですかね」といったようなセリフになっていた。でも、田中さんが提案してきたのはいまのもので「立岡さんはいつも正しいです」と皮肉めいた答えをする。これは痺れました。このセリフは僕では思いつかない。すばらしい俳優さんです。


――それから物語のキーパーソンといっていい乃愛役の山田なつきさんについても少しお話をうかがえればと思います。ミステリアスかつちょっと不思議なたたずまいが印象に残ります。


彼女はオーディションで決まったんですけど、はじめはなぜ彼女を選んだのか自分で選んでおきながらよくわからなかったんです。ただ、ピンときたというか、彼女だなと思ったのは確かで。実際、乃愛を演じてもらったら、もう彼女のために作ったのではないかというぐらい、どんどんリンクしていく。自分でもびっくりしたんですけど、後になってようやくわかりました。


振り返ると、オーディションがリモートだったんですけど、質問したら山田さんの動きが止まったんです。パソコンがフリーズしたのかと思ったら、その質問に対して微動だにせず熟考してくれていた。そういうマイペースでおもしろいところがある。でも、芯があってものすごくしっかりもしている。あと、最後の絵は彼女が描いてくれたんですけど、これも唐突というか。それ以外の劇中の絵はもともと僕が描いていたんですけど、あるとき、山田さんが最後の絵はわたしが描いてもいいですかと申し出てくれたんです。


そういう彼女の不思議な魅力を自然に感じ取っていて、乃愛は山田さんだ、となったのだと思います。

©世田谷センスマンズ


――監督、脚本のみならず編集、美術、撮影にも携わって完成させた作品ですが、自身にとってどんな作品になったでしょう?


これまで「自分の代表作」と言える作品がずっと作りたかったし、そう思える作品がほしかった。今回、そう思える作品がようやくできたかなと思っています。


もしパラレルワールドに映画を作っていない自分がいて。その彼に自分の映画を見せて面白いと思ってもらえる映画を作りたいとずっと思っていたんです。そういう映画になってくれたのではないかという感触があります。間違いなく自分の人生においてターニングポイントになるであろう作品になったと思っています。


――その作品が今回入選しました。


うれしかったです。時間をかけて作った作品がたくさんの方にみていただけるチャンスをいただいたことがまず一番うれしい。お恥ずかしい話なのですが、これまで縁もなかったので映画祭について詳しくなくて、<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭>もどれぐらいの規模で、どんな映画祭なのか漠然としか知らなかったんですよ。だから、入選したときも「やったこれで見てもらえる機会ができた」という喜びが強かった。あとから北林等から「若手映画作家の登竜門的な映画祭で、入選をするのはけっこうすごいことだぞ」みたいなことを言われて、「えっ、そうなの」といった感じで、いまになってすごいことだと実感しています(苦笑)。


ほんとうに初めて人の目に触れる機会になるので、どういう反応あるのか、怖くもあり楽しみでもあります。

『地球星人(エイリアン)は空想する』作品詳細

取材・写真・文:水上賢治

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