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【インタビュー】『鬼が笑う』三野龍一監督、三野和比古(脚本)

写真左:三野龍一(監督)同右:三野和比古(脚本)

※作品の結末に触れている箇所があります。予めご了承ください。
 
 
ーー兄の三野龍一さんが監督を務め、弟の和比古さんが脚本を担当してという兄弟二人三脚で最初に発表した長編映画『老人ファーム』は、カナザワ映画祭2018 で観客賞を受賞。自主制作・配給でユーロスペースほかで2019年全国公開されました。映画制作チーム「MINO Bros.」の大きな一歩だと思うのですが、次となったときどんなことを考えていたのでしょう?
 
龍一:正直な話、『老人ファーム』は悔しさだけが残りました。ゼロからの第一歩でしたから、まずは完成させることに全精力をつぎ込んでしまった。作ったあとのことをまったく注視して考えていなかった。そのため、自分たちが映画でやろうとしたことが正しいのか、正しくないのか、いいにしろ悪いにしろ、判断するまでにもいかなかった。これが悔しくて、自分たちの映画作りの答え合わせのような形で、2作目の『鬼が笑う』はスタートしました。
 
和比古:作ったあとのことを、ほんとうに大事に考えていなかった。ユーロスペースで公開されて「おもしろい」といってくださった人もいるから、いまがあるんですけど、それにしても、もう少し観客に届けることはできたと思うんですよね。
 
龍一:ただ、作るだけだったら、単なる自己満足で。映画はやはりみてもらって完成すると思うんです。みていただいて、どういう反応があって、どういう見方をしてくれる人がいるのかがいまひとつ考えていたところに到達しなかった。その悔しさをバネにしての今回です。
 
 
ーーその悔しさの中で、どういう作品を模索したのでしょうか?。
 
龍一:基本的にはリベンジマッチということで、前作『老人ファーム』の雰囲気や内容を踏襲しながら、主人公のたどる感情のラインを、同じロジックで描こうと。それで、前回果たせなかった答え合わせができればいい。
 
 
ーーでは、脚本はどういう発想からできていったんですか?
 
和比古:『老人ファーム』のときもそうなんですけど、半田さんがきっかけというか。
 
龍一:正直な話、半田さんがラスト・シーンのあの行為をやりたいと言ったんです。しかも演技とかじゃなく、実際にやりたいようなことを(苦笑)。それは死んじゃうからまずいですと、なだめたんですけどね。半田さんが希望するあの行為から逆算して作ったところがあります。
 
和比古:まずその行為があって、ストーリーとしてはさきほども触れたように、前回を踏襲して半田さんをしっかりとみせていきたいので、主人公の一馬の主観で進めていくような形をとりました。
 
 
ー一馬は、母と妹を父の暴力から守るため、父を殺めてしまう。社会復帰を目指し更生保護施設で生活を始めた彼は、スクラップ工場でも勤勉に働くが、社会は彼に「人殺し」のレッテルを貼り、つまはじきにされる。さらに救ったはずの母にも妹にも遠ざけられ、彼は生きる希望を失っていく。その一馬の心の遍歴が克明に描かれていきます。
 
和比古:周りのためによかれと思ってやったことが、感謝されるどころか余計なお世話になってしまうことがある。まさに一馬はそういう自分で、家族を救おうと父を殺したのに、母も妹もそんなことは求めていなかった。単なる一馬のひとりよがりだった。
 
1作品目の『老人ファーム』を制作してみて、半田さんにも一馬のような心優しい部分があるのではないかなと、ずっと思っていました。なので僕だけが気づいている半田さんのその側面をうまく脚本には落とし込むことができたと思っています。
 
 
ーー殺人者というレッテルを貼られた一馬からみえてくるのは、日本の社会。それも『老人ファーム』と同様に、できれば見過ごしたいけど確実にある日本社会の偏見や差別といった闇が浮かび上がります。たとえば、一馬の働くスクラップ工場では、外国人技能実習生がやってきてひどい仕打ちにあう。そういった現実から目を逸らさないで描いていると思いました。
 
龍一:最近、テレビをつけると「日本万歳みたいな」「日本ってすごい!」といった番組がやたら目につく。そこに僕はなんか気持ち悪さを感じてならない。自己を肯定することは、もちろん大切なことだと思うけど、称賛してしまうのはどうかなと。自画自賛しているようなものですから。
 
で、思うんです。そんな称賛してますけど、日本人にも汚いところいっぱいあるでしょと。きれいごとですまされないこと日本で起きていますよと。
 
和比古:脚本を書くにあたり、僕は実際に短期ですけど、ラインの工場でアルバイトをしたんですよ。すると、中国人のほか外国人の技能実習生がいるわけです。当然ですけど中には言葉がつたない人もいる。でも、こちらが聞き取れないほどわからないわけではないんですよ。でも、日本人の上司とかが「ちゃんとしゃべれ!」とどなりつけたりする。そういう現実問題はリアリティを重視して脚本に反映させていきました。
 
 
ーー先ほども少し触れたのですが、『老人ファーム』のときも、今回の『鬼が笑う』にしても、主人公がよかれと思ってやったことが、他人からすると余計なお世話となってしまう。通常の映画であると、彼らのような存在はかわいそうな存在としてなにか救いの手を差しのべるところがあると思うんです。そのことで肯定して、彼らのような存在が排除されてしまう社会に問題がある方向に導いていく。でも、『鬼が笑う』はまったく違う。一馬を肯定しない。そこが斬新です。
 
和比古:いや、実際の社会って彼のような存在を肯定しないと思うんですよ。むしろ、どんどん追い込むのではないかと。
 
龍一:一馬の存在を否定しようとかはないんです。けど、実際の現実ってそうじゃないのと。彼のような存在を受け入れる人ってどれぐらいいるのかなと思ってしまう。一馬が父親を殺したことは許されないですけど、分かる部分もあるんですよ。取り合わないですけど、母親も妹も少しは感謝している部分があると思う。ひどい暴力から抜け出せたわけですから。でも、世界の意識が変わらない限り、社会はおそらく殺人を犯した人間のことをわかろうとしない。その現実をみせたいし、安易な救いには流れたくなかった。
 
あと、たぶん多くの人がこの物語は悲劇だと感じると思うんです。でも、僕は悲劇だと思っていないんですよ。むしろ、一馬はようやく自由になれたと思っている。
 
和比古:これは一馬に限らないですけど、人は自分が負った責任から逃れたい気持ちってあると思うんです。一馬も家族から責め苦を追っている。そこから逃れられない。で、最後に残された逃避があのラストの行為だと思うんです。
 
龍一:僕としては、主人公の主観でいうと、ハッピーエンドなんですよ。みんなに苦しすぎる、悲しすぎるといわれるんですけど(笑)。
 
一馬の行為が正しいかはわからないけど、彼が最期にした選択は僕は気持ちがわかる。やっとすべての責任から解放された瞬間だったと思う。だから、ぜんぜん悲劇と思っていないんです。
 
 
ーーこういう話を続けていると、主義主張のある社会派の作家に思われるけど、お二人はちょっと違いますよね(笑)
 
龍一:作品が重い題材だからか、社会に物申すみたいに思われがちなんですけど、実は僕らには普段生きている中で社会に対して物申したい!という欲はそこまでないんです。
 
和比古:僕らがいくらツイッターで物申しても、社会って変わらないよね。って分かっている。ですが、映画は違うと期待している。
 
龍一:僕らは映画の中で、世の中ってこういうことがある、それで僕はこう感じている、みなさんはどうですか、と差し出しているだけなんです。ただいまある現実や事実を並べているにすぎないんです。僕ら自身が縛られたくないから他人にああしろ、こうしろ、こういう意識持って、とかいえないですよ。
 
 
ーー今回の半田さんはどうでしたか?
 
龍一:今回組んで、僕は改めて半田さんの魅力に触れたというか。ここ2作とは別パターンの半田さんもみたくなりました。また今回は、中国人の劉役の梅田誠弘さん、石川一馬の母・由紀子役の赤間麻里子さん、スクラップ工場の社長・松本役の岡田義徳さん、その他にも迫真の演技をしている役者が多数出演をしているので、半田さんだけではなく是非そちらにも注目していただければと思っています。
 
 
ーー兄弟で映画作りをしようと思ったきっかけを教えてください。
 
龍一:とても言い方が難しいのですが、兄弟で映画作りをしようと決めてスタートした訳ではありません。映画は総合芸術なので、スタッフ、キャスト共に、僕の感じる素晴らしい才能を持った方々と映画を作ることができるならば、確実に面白いものができると信じています。その脚本の才能がたまたま弟だった。ラッキーって感じです。映画というのは自己を追求した結果に生まれるものだと我々は考えています。ですが、その自己分析が一人だととても苦しい。近い考え方を持った兄弟だからこそ、その自己分析が確信に近づくのかなと思っています。
 
和比古:『老人ファーム』での満足しない結果が出たことによって、映画作りに対する向き合い方というのが自分の中で変わってきました。YouTubeでは多くのYouTubeチャンネルやアイコンが存在し、視聴者が好きなアイコンを選び動画を視聴する仕組みになっていますよね。しかし日本の映画というのは監督や作家が誰であるかという視点で映画を選択する文化が少ないように感じます。なので映画監督や脚本家に対しての待遇が悪くなり、その結果、映画監督や脚本家を目指す人が少なくなっているように思います。
 
龍一:僕たちは映画が好きだからこそ、このような日本の映画界の仕組みを少しでも変えたいという意味も含め、「MINO Bros.」というアイコンを掲げ、結果を求めます。そうすることによって日本の映画業界が少しでも盛り上がっていくことを期待しています。
 
 
ーー今回の国際コンペティションの入選はどう受け止めていますか?
 
龍一:ありがとうございますという感謝です。映画祭のしかも国際コンペティションという海外作品も並ぶ中に入れたということは、そういう中に入っても対抗しうる力があると、選考でどなたかひとりは思ってくださった。この作品に可能性を見出してくださったことですから、これは大きな自信になりました。
 
和比古:『老人ファーム』での悔しさから、今回は国際映画祭への出品を目標にやってきました。なので、まずは目標をひとつクリアしたと思っています。
 
龍一:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭が、『鬼が笑う』のスタートになるのでいい船出を迎えられたらと思います。そして、日本代表にはじないように頑張りたいです。
 
 

文・写真=水上賢治

 
『鬼が笑う』作品詳細
 
 


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