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【デイリーニュース】vol.12 『UTAMA ~私たちの家~』アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督 Q&A

離れて募るボリビア愛でボリビア映画を作り続けたい

アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督『UTAMA~私たちの家~

 

国際コンペティションの貴重な来日ゲスト、最後に登壇となるのがボリビア出身のアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督。現在スペインで暮らしているグリシ監督の長編デビュー作『UTAMA~私たちの家~』は、今年のサンダンス映画祭のワールドシネマ・ドラマティック部門で審査員賞を受賞した。

 

ボリビアの高地でリャマを飼い暮らしているケチュア族の老夫婦ビルヒニオとシサ。ある日町から孫のクレベルがやって来る。土地を捨てた息子が送り込んだ孫に冷たい態度をとるビルヒニオ。おりしも未曽有の干ばつが高地を襲い、老夫婦の静かな生活はかき乱される。

 

頑固なビルヒニオと寡黙なシサ。長年連れ添い、言葉を交わさなくても通じ合うような老夫婦に自らの両親を重ねたという観客が、このストーリーは監督の体験をもとにしたものなのかとまず質問した。

 

「この物語はすべてフィクションです。一般的な話として、特に男性は長年連れ添った妻とコミュニケーションをとろうとしなくなるのではないかと考えたところから始まった物語です。確かに私の祖父はビルヒニオのような頑固者でしたし、私個人の経験や家族のエピソードなども入ってはいます」。

 

「ビルヒニオとシサの夫婦を演じたのは実の夫婦です。もちろん初めての演技です。撮影した地域で出演者を探したのですが、この夫婦に会って私は恋に落ちてしまいました。実際はもっとかわいい人たちなんですよ。映画の夫婦は孤立したところに暮らしていますが、現実には30人くらいの小さな村に住んでいます」。

 

老夫婦はケチュア語も話すが孫はスペイン語しか話せず、時々会話が成り立たなくなる。このディスコミュニケーションも、この映画のテーマの一つなのだという。

 

「ボリビアは広い国ですが人口は少なく1100万人。にもかかわらず36の公用語があります。ということは36以上の民族が住んでいるということで、それぞれに異なる文化や慣習があるのです。どこの国でも起きる問題だと思いますが、グローバリゼーションが進み、都市にはどこの国にもあるスターバックスやマクドナルドがあり、人々は都市に集中し、村は過疎化してそれぞれの民族の文化や慣習は失われつつあります。言葉や文化・慣習が親から子へは伝えられても、その子ども、つまり孫には伝えられない。祖父母から孫への文化の橋渡しが出来なくなっているのです。それは文化の死であり、悲劇です」。

 

「さらにそれに拍車をかけているのが気候変動です。映画の中では一年近く雨が降らない。村人は、畑作ができないし、リャマも死んでいくと嘆きますが、これは実際に起こっていることなのです。田舎から都市に人が移動する理由は経済的なことだけではないのです。今は異常気象が原因で、田舎では暮らせなくなり都市に出る人が増えています。高地で撮影をしていると氷河がなくなり、雨が降らないということがよくわかりました。あれでは生き物は生きていけません。10年後にはボリビアの高地は砂漠になってしまうという専門家もいます」。

 

頑固な祖父と現代っ子の孫の反目と和解を描く作品かと思いきや、その物語の背景には大きな社会問題が描き込まれていた。ローカルを舞台にグローバルを描く。この視点はスペインで暮らしていることで培われたのだろうか。

 

「スペインで暮らしてまだ一年。なぜ移住したかというとボリビアでは映画を作る土壌がまだまだ育っていないからです。人口が少なく経済規模も小さいし、芸術や文化を支援しようという動きも遅れています。いわゆる“映画産業”が確立されておらず、プロデューサーが何人かいるくらい。『UTAMA~私たちの家~』を製作できたのはウルグアイのファンドを利用できたからです。それはウルグアイのコンテストに優勝したからでもあり、おかげで大変早く資金を集められ映画の制作に取り掛かることができました。けれども私はボリビアが好きなんです。恋しているのです。風景も、人間も、もちろん文化も大好きです。チャンスは少ないけれど、でも私はボリビアの映画を撮りたい。次の作品もボリビアで撮るつもりです」。

 

ボリビア愛あふれつつ、客観的な観察眼を持ち、新しいナショナルシネマを生み出していく。今南米で始まっている映画運動に連動してきそうな新人監督ボリビア代表。それがこのグリシ監督なのかもしれない。

 

UTAMA~私たちの家~』の次回上映は7月23日(土)14時20分から映像ホールで行われ、監督によるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月21日(木)10時から7月27日(水)23時まで。

 


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