ニュース

【デイリーニュース】Vol.26 クロージング・セレモニー(表彰式)開催!

映画祭とは「かけがえのない財産、誇るべき文化的レガシー」

前列は受賞者。後列は審査員、および映画祭主催者

 

7月18日(金)から9日間にわたって開催された、第22回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025。国際コンペティション部門を見送り、国内コンペティション部門のみを行った今年、応募総数271作品の中から13作品がノミネートされ、映像ホールで上映を行い、最優秀作品賞を競った。

 

国際コンペティション部門を見送ったのは、映像視聴が多様化する中、映画祭のあり方を再考するため。最先端の映像表現を展開するクリエイターやその作品を招へいし、上映や展示を行った。未来の可能性を見せた「AI映画の現在」、新たなる才能とのコラボレーション「武蔵野美術大学 映像学科 作品上映」などの上映。企画展「デジタルネイティブが視る映像のカタチ」として、VRやXR、AI映像などの展示、多目的ホールに設置した大型縦型映画専用シアターでの様々な縦型映像の上映も評判を呼んだ。

 

若手映像クリエイター支援事業作品『ディッシュアップ』を上映する「特別上映 SKIPシティ インキュベート作品」、世界の選りすぐりの作品と出会う「海外招待」作品の上映、映画祭プログラムとして定着した川口の子どもたちの映像教育ワークショップの成果発表上映会「カメラクレヨン」のほか、本映画祭出身の石川慶監督によるトークショーつき上映会「商業映画監督への道」や、高画質、高音質な映像ホールで楽しむ「SKIPシティセレクション」なども、老若男女、多様な層の観客を集めた。

 

最終日の26日(土)は、受賞作品の上映に先駆けてクロージング・セレモニーと表彰式が行われた。

 

SKIPシティ国際映画祭実行委員会会長 大野元裕埼玉県知事挨拶

 

SKIPシティ国際映画祭実行委員会会長・大野元裕埼玉県知事

 

「6000名を超える方々にお越しをいただき、上映および企画展に接していただきました。開催地・川口市関係者、さらにはご協力をいただきました多くの企業団体、審査員の皆様に、改めて感謝を申し上げたいと思います。審査員の皆様においては、真剣に映画と向き合い、熱心に審査いただきまして、ありがとうございました。受賞された方、惜しくも受賞を逃された方も、本映画祭を契機として大きく羽ばたいていただきたいと強く思っております。今年は、最新技術を使った、多種多様な映像コンテンツをご紹介をさせていただきました。ご来場いただいた皆様には、映像の新たな可能性を感じていただけたのではないかと考えています。

 

SKIPシティは、映像ホールやスタジオなど、映像クリエイターを支援するさまざまな施設を有し、2003年のオープン以来、多くのクリエイターに映画制作の場を提供してまいりました。また、映像ミュージアムやライブラリーなど、県民の皆様が映像に親しんでいただけるスポットにもなっています。現在、この会場のすぐ北側で整備が進んでいる、NHKの新たな施設も合わせ、SKIPシティが国内有数の映像拠点となっていくことを確信をしています。映画をはじめとする映像コンテンツの世界において、これまでにない新たな映像表現が次々と生まれています。クリエイターの方々が、ここSKIPシティから羽ばたき、活躍されることを心から祈念申し上げます」

 

続いて、各賞の受賞作・受賞者の発表となった。受賞のコメント、および審査委員長の総評は以下の通り。(*受賞一覧はこちら

 

審査員 左からクーン・デ・ローイロッテルダム国際映画祭プログラマー、石川慶監督(審査委員長)、水野詠子プロデューサー

 

【コンペティション受賞結果】

 

最優秀作品賞

水底(みなそこ)のミメシス』茂木毅流監督、長澤太一監督
水底(みなそこ)のミメシス』茂木毅流監督(共同監督の長澤太一監督はウィーン留学中のため欠席)

 

【講評:石川慶】
「今回のコンペで審査員3人が最も高く評価したのが水底(みなそこ)のミメシス長い夜で、どちらも作品としての力と監督の可能性を感じました。最終的にこの作品を選んだのは、作品が持つ強度に圧倒されたからです。ここでいう強度とは完成度や映画的センスではなく、映画がこちらに向かって語りかけてくる意思の強さ。この映画は粗削りだとか冗長でプリテンシャスだという指摘もありましたが、そういう欠点ごと作品全体が押してくる力がありました。作り手としての迷いや葛藤が恥ずかしげもなく、むき出しのままぶつけられている、そこに強く心を動かされました。作家の初期の作品は、そういう自分の声が届いているかが一番大切だと思います。完成度やセンスよりそこに何が込められているか、それが伝わるか。その声はプロとして作品を重ねていく中でいつの間にか失われていってしまうものでもあります。だからこそ最初の強度が作家としての持続力にもかかわってくる。世の中にはそういった声を失ってしまった映画が本当はたくさんあると思いますが、この映画にはその声が生々しく強く、確かにあったと思います」

 

茂木毅流監督
「監督の片割れの茂木毅流と申します。僕は、今日は手ぶらで帰るものだと、一緒に会場に来てくれた友だちとどこかでお茶して帰るのだとばかり思っていました。この作品には、後輩や同級生、アニメーションのアの字も知らない、作り方も知らない、興味があるというだけの子、総勢30人が集まってくれました。こういったもの(トロフィー)を持ってみると、そのような仲間たちの思いみたいなものを改めて感じて、今は驚きが強くて、手も声も震えてしまっています。こういう実感を持てたことを本当に喜ばしく思っております。僕はちょっと引っ込み思案なところがあって、前に出るのも苦手なんですが、今オーストリアのウィーンにいるもう一人の監督、長澤太一が僕を引っ張り出してくれたという経緯もあるので、彼とふたり、そしてついてきてくれた皆で取った賞だと心得て、しかとこれを持ち帰ることにします」

 

SKIPシティアワード

長い夜』草刈悠生監督
長い夜』草刈悠生監督

 

【講評:水野詠子】
「大切な人を失った時、人間がいかにその悲しみと向き合い克服していくかという普遍的なトピックを、現代の若者の生きざまを通して、丁寧に描いた本作。そのシネマ的なアプローチを、審査員一同は確かに感じ取りました。そして草刈監督にこの賞をお送りする意味は、監督の2作目をぜひ鑑賞したいという審査員の強い希望です。今回の映画祭では、改めて映画というものは監督ひとりのものではないことを感じました。これから制作活動に励まれる方は、映画が皆の力がひとつになってできる美しい創造物であることを忘れず、自己の創造性と仲間へのリスペクトを忘れずに作り続けていただけたらと思います」

 

草刈悠生監督
「水野さんがおっしゃったように、映画は監督ひとりのものではないと思っています。本当に少ない人数でこの映画を作りました。観客席に主演の原田光一君、助監督の溝手連君、製作の大森弘頌君、音楽のSOJIN君が来てくれているので、よかったら拍手をお願いします。大変な労力のかかる映画祭を開催していただき、ありがとうございました。この映画のクラウドファンディングに協力してくださった皆様もありがとうございます。今この場に立っているのは皆様のおかげです。この賞をいただけたのは、今後の長編映画に期待していただいているからなのだと、トロフィーの重さからも感じております。その期待にお応えできるように頑張っていきたいと思います。この映画は灯台守というチームから始まった企画。本当に素晴らしいメンバーで、彼らと一緒に期待していただけたのだと思っています」

 

観客賞

ひみつきちのつくりかた』板橋知也監督
ひみつきちのつくりかた』板橋知也監督

 

【講評:クーン・デ・ローイ】
「この1週間で拝見したコンペ部門の13作品は、テーマや芸術的アプローチ、映画的言語における多様性にあふれていて、日本映画の明るい未来を示唆するものだと感じました。ひみつきちのつくりかたは、大いに楽しんだ作品です。非常に完成度が高く、長編デビュー作とは思えない。板橋知也監督は、人間関係や葛藤、孤独を鋭い観察眼で見事に描き出し、丹念に書かれた台詞によって4人の登場人物の内面に触れさせ、彼らの歩む道に共感を抱かせました。より多くの人に見ていただきたい作品であると同時に、きっと多くの観客の心を打つことと思います」

 

板橋知也監督
「素晴らしい賞をいただき、ありがとうございました。この映画はコロナ禍の時に脚本を書きました。陰々鬱々とした暗いニュースが続く中で、僕自身も不幸な出来事が続いたりして、とにかく僕自身がすごく楽しい映画を作りたかった。そしてお客さんにも楽しんでもらえるような、とにかく面白いものを作りたいと思って作った映画ですので、観客賞という素晴らしい賞をいただけたのは大変光栄に思います」

 

スペシャル・メンション

お笑えない芸人』西田祐香監督
お笑えない芸人』西田祐香監督 

【講評:クーン・デ・ローイ】
「数多くの力作がそろったコンペ部門でそれぞれの作品が個性を放つ中で、私たち審査員はスペシャル・メンションという賞を設けたいという思いに至りました。私たちを驚かせたこの作品は、若い映像作家による大胆な試みで、誰しもが抱える別の自分になりたいという葛藤を創造的かつ独創的な表現で描いています。特に印象的だったのはオリジナリティあふれる編集です。自ら選択し、道を切り開こうとする監督の勇気ある姿勢が見えました。監督は新しい才能として確かな存在感を世界に示しており、今後の作品も楽しみです」

 

西田祐香監督
「まさかこんな賞をもらえるとは思っていなかったので、すごくびっくりしています。今ここには私が立っていますが、正規メンバーとして一緒にあの映画を作った11人で一緒に立っている気持ちです。この映画の主人公のように、私も理想の自分が生まれては戦って、を繰り返して生きていくんだろうなと思っています。SKIPシティの映画祭を、改めて素晴らしい映画祭だと思いましたし、埼玉も大好きになりました!」

 

【総評】石川慶

 

石川慶審査委員長

 

今年のコンペは、本当に多様で、しかもレベルの高い作品が揃っていたと思います。そのため審査はとても難しかったんですが、何よりも心を動かされたのは、それぞれの作品に込められた「この映画をどうしても撮りたい」という強い意志でした。 作り手の皆さんがある日一念発起して仲間を集め、時間や資金、労力を注いで完成させた作品が、こうして川口の地で世界に向けて産声をあげた。その事実だけで、すでに賞以上の価値があると思っています。もっと言えば、そこらで何となく作られた志のない商業作品よりも、よほど存在価値のある作品たちだと思います。 改めて全ての作り手に、心からおめでとうと言いたいと思います。

 

20回を超える国際映画祭というのは世界的に見ても特別な存在で、それ自体が素晴らしい成果です。これまでにこの場で上映された何百という作品、ここを訪れたフィルムメーカー、スタッフの皆さんの思いを考えると、この歴史は川口という町にとってかけがえのない財産、誇るべき文化的レガシーだと思います。今回、国際コンペティション部門が見送られ規模が縮小されましたが、ここで立ち止まることなく、むしろこれから外に開かれた国際的映画祭として成長を続けていただきたいと強く思います。

 

ここでどうしても一言触れておきたい作品があります。クルド人家庭のひと夏を記録したドキュメンタリー『夏休みの記録』です。今回は賞から漏れてしまいましたが、子どもたちが駆けつけたあの温かい雰囲気の上映は、今回の映画祭のハイライトのひとつだったと思います。上映を決断した関係者の皆様に心から敬意を表します。

 

川口は多様な文化や背景を持つ人々が共に暮らす国際都市だと思います。ここで起きていることを、ニュースで目にすることもありますが、そこに写されていることが一部にすぎないことも分かっています。見えない日常の声や姿を映画という形で可視化すること、そしてそれを偏りなく共有し、語り合う場を生むことは、映画が持つ本来の力であり、映画祭の本質的な役割だと僕は信じています。これからの時代に何を語るべきか、どんな声を届けるのか、どんな形で映画と向き合っていくのか。そのひとつのヒントが今回の映画祭には確かにあったと思います。最後にすべての作品、関係者の皆様に改めて敬意と感謝をお伝えします」

 

SKIPシティ国際映画祭実行委員会副会長 奥ノ木信夫川口市長挨拶

 

SKIPシティ国際映画祭実行委員会副会長 奥ノ木信夫川口市長

 

「最優秀作品賞を受賞した水底(みなそこ)のミメシスの茂木毅流監督も、SKIPシティアワードを受賞した長い夜の草刈悠生監督も、22歳だと聞きました。仲間が集まって作り上げたと言っていましたが、若い才能が持つ熱量とは素晴らしいものだと思います。川口市は、悪い面ばかりが取りざたされがちですが、実はそれはほんの一部。石川審査委員長がおっしゃったように、川口は国際都市なのです。川口駅に東京上野ラインが止まり、2031年に羽田空港に乗り入れる羽田空港アクセス線が完成すれば、今度は交通の便の上でも、世界へとつながる国際都市になる。それを示唆する言葉をいただき、本当に感謝しております。ご協力いただきましたすべての皆様に厚く御礼申し上げます」

 

土川勉映画祭ディレクターの挨拶

 

土川勉映画祭ディレクター

 

「コンペティションの受賞者の皆様、本当におめでとうございます。また、連日スクリーン上映をご覧になり、厳正な審査をしていただきました審査員の皆様も、ありがとうございました。

 

今年は、映像視聴の多様化を受け、映画祭のあり方を再考する選択をし、国際コンペティションの開催を見送り、国内クリエイターの発掘と育成を中心としたコンペティションへと再編成した映画祭となりました。その審査員には、プロデューサーの水野詠子さん、映画祭プログラマーのクーン・デ・ローイさん、そして審査員長として映画監督の石川慶さんと、立ち位置の異なる映画人をお迎えしました。先ほど、作品の受賞理由や講評をいただきましたが、今年のコンペティション作品は、ジャンルもバラエティに富み、質も高く、審査は甲乙つけがたく難航いたしました。そんな作品を審査する過程を拝見し、映画は見る人の人生を反映するものであることを実感し、映画祭開催の意義の一端を感じました。多くの熱い映画ファンに参加いただいた観客賞も、接戦となりました。今回、応募してくださったすべての作品の監督、俳優、スタッフの皆さんのご健闘を期待したいと思います。

 

最後に、埼玉県、川口市川口商工会議所の関係者の皆様、ノミネートを含むすべての審査員の皆様、国内外のゲストの皆様、この映画祭を陰で支えていただきましたすべての皆様に、この場をお借りして感謝の意を表したいと思います。皆さん、来年もこの場でお会いしましょう。どうもありがとうございました」

 

 

取材・構成:金田裕美子 取材・構成・撮影:関口裕子


TOP