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【デイリーニュース】Vol.04『火山のふもとで』ミコワイ・リズット プロデューサー Q&A
重要なのは我々隣国のポーランド人がウクライナ侵攻を語ること
『火山のふもとで』ミコワイ・リズット プロデューサー
各国の映画祭で高く評価された長編2作品と、ロッテルダム国際映画祭2025タイガー・ショート・アワードを受賞した短編2作品を上映する海外招待作品部門。映画祭2日目の7月19日(土)、第97回アカデミー賞国際長編映画賞においてポーランド代表作に選出された『火山のふもとで』が映像ホールで上映された。
スペイン最高峰のテイデ山で知られる火山島テネリフェ島。そんな人気リゾート地で休暇を過ごしていたウクライナ人家族が、ロシアによるウクライナ侵攻で帰国できなくなり、島に留まらざるを得なくなってしまう。リゾート地ののんびりした雰囲気の中に届く、祖国の緊迫したニュースや映像。どうすることもできない苛立ちからすぐ言い争いになる父と母、不安を隠せない10代の姉と幼い弟の4人は、到底楽しむ気分にはなれないが、仕方なく島を観光して回る……。
上映の後には本作のプロデューサー、ミコワイ・リズット プロデューサーが登壇し、Q&Aセッションを行った。スペインの島で孤立してしまうウクライナ人家族の物語をポーランドで映画化することになった経緯について、こう語る。
「きっかけは監督のダミアン・コツルがドイツの新聞で読んだ、ウクライナで戦争が始まったときにモーリシャスで足止めを食らったウクライナ人家族についての小さな記事でした。あの家族のアイデアはそこから来ているのですが、ここで重要なのはなぜ私たちポーランド人がウクライナの戦争についてストーリーを語るのかということ。2022年の攻撃は、隣国のポーランド人にも非常に大きなショックでした。私たちの国にとってもリアルな恐怖だったのです」
『火山のふもとで』(英題:Under the Volcano)というタイトルからは、マルコム・ラウリーの小説やその映画化であるジョン・ヒューストン監督の『火山のもとで』が連想される。
「私も、監督のダミアンも、マルコム・ラウリーの大ファンなんです(笑)。もちろんラウリの小説とは何の関係もありませんが、例えば『木の下で』『傘の下で』くらい一般的な言い回しです。このタイトルは重要で、日本の皆さんなら火山のふもとで生きるとはどういうことかおわかりいただけると思います。物語に密接に関係しているのです」
コルツ監督の前作『パンと塩』(22)は、帰郷した音楽学生の物語。前作から注目していたという観客からは、監督の音楽へのこだわりについての質問が飛んだ。
「ダミアンには、音楽を聴く才能があると思います。この映画に関しては、作品のために曲を書いてもらうかどうかかなり議論をした結果、音楽はスキップすることに決めました。もちろんラジオから曲が流れたり、人が歌う声が聞こえたりはしますが、物事を説明するための音楽は使わないという決断をしています」
前作ではアマチュアの俳優を使っているが、本作ではプロの俳優を起用したという。
「この映画は、脚本はありますが、感情の面ではドキュメンタリーだと思っています。その意味で、キャスティングは映画製作の中でもとても重要なプロセスでした。戦争が始まってから多くのウクライナ人が様々な国に移民したので、5カ月かかってヨーロッパ中を探しました。4人家族のうち2人はウクライナではとても有名な俳優です。父役のロマン・ルツキーはシェイクスピア劇で知られる舞台俳優で、母役のアナスタシア・カルピエンコは映画スター。ダミアンにとっては初めて大物俳優を演出する機会になりました。通常、俳優たちは事前に脚本をもらって役作りや準備をするものですが、私たちは脚本を撮影前日にわたしました。自然で本物の感情が欲しかったからです。戦争が始まってちょうど2年後に撮影を開始したので、感情レベルでは実際に凄くリアルだったと思います。ストーリーは普遍的なものですが、ウクライナの戦争に強く結びついている話なので、なるべく早く作品を作りたいと思いました」
大物俳優たちにはさまれながら、抜群の存在感を誇るのが幼い息子を演じたフェードル・プガチョフくん。彼について聞かれると、リズット・プロデューサーは一気に顔をほころばせた。
「彼はセットで最高のファクターであり、俳優でした(笑)。彼のことは、キャスティング・ディレクターがプラハで見つけました。お父さん、お母さんと共にチェコに逃れてきて、今後もそこで生活していくと思います。テネリフェ島にはお母さんと一緒に来ていましたが、子役には一度しか良いテイクを撮るチャンスがないんです。何度も繰り返すと飽きてしまって、リアルな感情でなくなってしまう。子どもと一緒だと仕事が早く終わるという良い面もありますが(笑)」
取材・構成:金田裕美子 撮影:松村薫