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Daily News Presented by Variety Japan

2010年7月24日

見る者から大いなる言葉を引き出す『不毛の丘』

「少年が周囲の尊敬を勝ち得ようと努力する姿にひかれた」とロブ・キング監督

 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010、2日目最後の上映作品となった『不毛の丘』は、訥弁な映画でありながら、見た者に人生を振り返らせ、また大いなる言葉を引き出させる作品であった。

 1954年の荒涼たるカナダの遠隔の地で、少年院から戻ってきた15歳の少年と、地域社会から疎外されている亡命者で精神不安定な叔母(ガブリエル・ローズ)とが、葛藤と貧しさのなかで、人として生きることの尊厳を取り戻していくさまを描く。60年?80年代に活躍したウクライナ移民二世の劇作家・小説家ジョージ・リガの小説の映画化。

 撮影監督ケン・クロウジェックが、レッドカメラを使って描きあげたいぶし銀のような画に圧倒され、言葉を失っていると、「さてなにか質問はありますか?」と、ロブ・キング監督へのQ&Aが始まった。

 やや、間があり、キャスティングに対しての質問が会場から。主人公とその悪友を演じた少年たちが、大人から虐げられ、また子どもであるという束縛のなかで、必死に自分の足で立とうとするさまは心をゆさぶる。

 「キャストのオーディションは、バンクーバーやトロント、私の故郷の近くでロケ地でもあるサスカチュワン地方で行いました。この映画ができるまでに15年近くも経っているので、最初に予定していた少年たちは成長してしまい、撮影ができることが決まってからのオーディションとなり、そのときに決めたのがスニット役のケール・ギルクライスト。偶然なのですが、ケールが、ジョニー役のアレクザンダー=デ・ジョーディと実際にも親友だということがわかり、その要素は映画にも使わせてもらいました」

 そのほかに、少年たちを追う地元の警察官(ジョン・パイパー=ファーガソン)がひとりで行動しているのはなぜか? 父親を自殺で失ったスニットはなぜ少年院に送られたのか? などの質問があり、それぞれ前者には、監督の叔父が保安官的な仕事をしており、やはり一人で動いていたこと。小説のなかでは小さなキャラクターであったが映画ではある使命を与えたこと。後者には、心の病に対する偏見や誤解があったからだと、雄弁に語った監督。

 映画化のきっかけは、「社会のアウトサイダーである“少年”が、果敢に周囲の尊敬を得ようとするこの物語にひかれたから」だという監督に、少年の台詞にもあり、映画全体を通して描かれる「自分を必要とされていない」と思う概念や人々を、現代のどんな側面のメタファーとしたのかを聞いてみた。

 「成長の過程で、自分は世界とどう向き合っていくかを悩むもの。また社会的に困難な生き方をしているのであれば、余計その悩みは強くなると思う。父親の不在――父親の沈黙を息子が語る、という言葉がある。撮影中には気づいたのだが、この映画はそういう仕組みになっていると思う」

 「うわ、難問だな」と戸惑いぎみに話してくれた監督は、自身、納得のいく答えではなかったようで話し終えてから、「これでいい?」とばかり目配せした。

 1次産業が主要産業ではなくなり、インターネットの発達でダイレクト・コミュニケーションの機会が薄れていく現代にこそ、自分と社会との関係性を問う「必要な存在なのか?」の言葉がリアルに感じられるような気がした。

 キング監督の次回作は、ガイ・ヴァンダーヘーゲ原作の“The Last Crossing”。19世紀のアメリカからイギリス、そしてカナダのサスカチュワンに旅する西部劇だ。「2人の兄弟が行方不明の3人めの兄弟をさがしてカナダへと旅する物語。ラブストーリーでもある」という。現在、2稿めを書きあげたところで、脚本をネームバリューのある俳優が興味を示してくれていることもあり、バジェットは35億円(本作は1億円)くらいになりそうだという。

 『不毛の丘』の次回上映は、27日(火)14時から。作品詳細と監督プロフィールはこちら

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