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Daily News Presented by Variety Japan

2010年7月25日

思いがけない恋愛によって自分の殻を破ろうとする『けがれなき愛』

「人生の不条理を認識する瞬間を描きたい」とシン・ヨンシク監督

 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010の3日目、長編コンペティション部門出品作である韓国映画『けがれなき愛』が上映された。

 カメラの腕利き修理工で、結婚もせず何十年間もひたすら仕事に没頭してきた男。亡くなった古い友人に娘の世話を頼まれていた彼は、大学生の娘の家を訪ね、やがて親子ほども歳の離れた2人は互いへの思いを抱き始める。韓国映画を代表する俳優アン・ソンギが、初めての恋愛に翻弄される初老の男をチャーミングに演じるほろ苦いラブ・ストーリーだ。

 脚本・監督のシン・ヨンシクは、まだ青年の面影を残す韓国の新鋭。若い監督がなぜ初老の男の物語を? とは誰もが抱いた疑問らしく、映画上映後のQ&Aセッションでも観客からその質問が飛んだ。

 「20歳くらいからずっと撮影現場に入り浸っていましたから、私自身、同世代との付き合いがほとんどないんです。友人の娘と付き合うという物語はそこだけ見ると過激かもしれませんが、私が描きたかったのは歳の差ではなく、自分だけの世界に閉じこもっていた剥製のような人物が、思いもしなかった相手と恋愛をして変わっていくという部分なんです」。

 友人、親の死、周囲の反発など、さまざまなことを乗り越えて2人が最後に辿り着いた答えは――ラストは観客の想像に委ねられている。

 「私がいつも描こうとしているのは、人生の不条理を認識する瞬間です。ラストシーンは夢なのか現実なのか、様々な見方ができると思いますし、拡大解釈すれば彼女が本当に存在したのかどうかすらもわからない。主人公が自分の殻から抜け出して、これから成長してくことができるのかどうか、ということを表現したかった」。

 相手役の女優のキャスティングは難しかったと監督は言う。「子どもっぽくても成熟しすぎていてもいけないし当然演技力も必要とされますが、イ・ハナはぴったりの女優でした。彼女は『恋愛時代』など、主にテレビドラマで活躍している人。アン・ソンギは50年ものキャリアを持つ重鎮なので、映画人は彼に対してすごく緊張してしまうものなんですが、彼女は映画の経験が浅い分、屈託なく彼の肩を叩いたり頬に触ったり気楽に接していて、逆にそれが映画にうまく働いたと思います」。

 次回作も3本準備しているというヨンシク監督。そのうち1本は再びアン・ソンギ主演で、なんと1930年代の日本を舞台にしたフィルム・ノワールだという。「彼が悪役を演じることはあまりないんですが、この映画では韓国人組織のボスという役柄。対する日本人組織のボスには日本の著名俳優をキャスティングして、日本でも撮影を行う予定です」。こちらの完成も楽しみに待ちたい。

 『けがれなき愛』の次回上映は、30日(金)11時から多目的ホールにて。作品紹介と監督プロフィールはこちら
 

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