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Daily News Presented by Variety Japan

2010年7月25日

デジタルだからこそイランでの撮影が可能になった『テヘラン』

「イランの人々の苦しみを伝えたい」とナデール・T・ホマユン監督

 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010の3日目最後の上映は、イランの首都テヘランで厳しい現実を生きる人々を描いた硬派の作品『テヘラン』。

 田舎から大都会テヘランに出稼ぎに来たイブラヒムは、まともな職も見つからず、同情を引くため赤ん坊を闇業者からレンタルして物乞いをしている。しかしある日、赤ん坊が連れ去られてしまい、友人たちと共にテヘラン中を探しまわることに……。

 赤ん坊レンタルや人身売買、麻薬密売、革命軍を装った強盗など、ショッキングな出来事が次々と描かれる。上映後のQ&Aセッションではまず、こんなことが日常的に起こっているのか、という質問がナデール・T・ホマユン監督に投げかけられた。

 「テヘランの住人すべてが裏社会にかかわっているわけではありませんが、生きるために何でもしなければならない現実は確かにあります。イランは日本と同じように文化もあり、石油にも恵まれた国ですが、豊かではありません。人々は生きるというより生き延びるために必死です。私はこの作品で多くのことを伝えたかったわけではありません。イランの人々が苦しんでいることを伝えたかったのです」。

 イラン人である監督自身はパリ生まれで現在もパリ在住だが、15年間をイランで過ごし、今も年に2回は帰国するという。

 「イランはどんどん変化しているので、イラン在住の脚本家とフランスの脚本家の両方と仕事をしました。今回はまず、テヘランの町そのものを描きたかった。テヘランの町のどこにでもいて町中を歩きまわることのできる人物として、物乞いを主人公にしました。冒頭のシーンは、実際に町なかで俳優に物乞いをしてもらい、カメラを隠して撮影しています。ですから相手の反応がリアルなんです。ドキュメンタリーではないので、フィクションの広がりも大切にましたが」。

 Dシネマ映画祭としても喜ばしいことだが、ホマユン監督は「デジタルシネマが監督としての私を救ってくれた」と言う。

 「イランでは、35ミリの映画撮影にはまず公式な許可が下りません。しかしデジタルでドキュメンタリーを撮るということであればOKなんです。デジタルカメラは小さいので、お腹に抱えて町の奥深くに入っていくことも可能でしたし、18日間で94シーン、移動しながらの撮影はデジタルでなければできませんでした」。

 デジタルが単にテクノロジーとしてだけでなく、こんなところでも新たな可能性を開くことができるいうことは、新鮮な驚きだった。

 『テヘラン』の次回上映は7月29日(木)10時30分から映像ホールにて。作品紹介と監督プロフィールはこちら

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